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もう随分遅くなってしまった

通常退勤時間に再び課長に捕まり、"少なくともこれだけは終わらせてから帰って下さい"と言われ、仕方なくそれを終わらすともう夕飯を逃した様な時間だった

本当に帰る前にもう一回、とエレベーターに乗り込んで分析室がある46Fを目指す



もう一回というのも、実は昼休憩の時に一度刑事課フロアと分析室には行った

一係オフィスに入ると、秀君と六合塚さんだけで、狡噛さんも、まだ見ぬ常守さんも居なかった

私の登場に秀君は伸兄と違って、すぐに全部教えてくれた


『あ、名前ちゃん!コウちゃんならセンセーのとこだよ』

『撃たれたって聞いたけど何があったの!?』

『あぁ...昨日新しい監視官が来たんだけどさ、潜在犯を撃とうとしたコウちゃんを撃っちゃったんだよ』

『....ん?なんで?どういう事?狡噛さんは何も間違った事....』

『その潜在犯元は人質だったんだよ。サイコハザード受けて犯罪係数上がっちゃって。相当混乱してたし、とっつぁんがパラライザー打ち込もうとしたのに、新人監視官ちゃんが“被害者を撃つなんてあり得ない!”ってさ』

『....で、でも混乱してたんでしょ?その人の身の安全のためにももっと悪化して手遅れになる前に、パラライザーで眠らせるべきなんじゃ....』

『はぁ....名前ちゃんが俺達の飼い主なら良かったよ』


一応監視官目指してたし、すぐ側にその監視官がいるしある程度の知識だけはある


『まぁ名前ちゃんの予想通り、そうやってもたもたしてる間にその人300超えちゃってさ。それを撃とうとしたコウちゃんを止めるために、バーン....って事』

『そ、そんな...無茶苦茶だよ....お父さんを止めてなかったらその人質だった人もパラライザーで済んだのに....』


確かにこれは伸兄も怒りそうだ
私ですら納得が行かないのに


『それで結局どうなったの...?常守さんエリミネーター撃ったの?』

『んなわけねーじゃん。言葉で説得して落ち着かせようとしてたよ。まぁ本当にパラライザーレベルまで戻ったんだけどさ。そこでギノさんがナイススナイピング!あの距離で当てちゃうのすげーよ!普通無理だろ、あんな高低差もあって』

『....こ、狡噛さん唐之社さんの所にいるんだよね?』

『そうだよ。名前ちゃん心配してるねぇ、もう結婚しちゃえばいいのに、っ痛!なんだよクニっち!』

『それは名前さんが決める事よ』


その場面で私はただ苦笑いする事しか出来なかった




そこから直接今度は唐之社さんがいる分析室に向かったところ、私の顔を見るなりすぐに

『ごめん!慎也君まだ起きてなくて、面会くらいしか出来ないんだけど....どうする?』

病床に横たわる狡噛さんの姿を、数あるモニターの中から見つけたが、

『....起こしちゃったら悪いですし、また来ます』

『....本当にいいの?名前ちゃん』

『はい、少なくとも無事なのは確認できましたから』

そうモニターを指差した

『分かったわ。慎也君の事は私に任せて』






そして午後の勤務に戻り、数時間残業をして今に至る

46Fに到着したエレベーターの扉が開くと、私は一息吐いてから踏み出した


廊下を進み"総合分析室No2"のプレートを掲げる部屋に入って行く


「あら名前ちゃん、随分遅かったわね」

「最近少し仕事が溜まってまして....」

「....まだサイコパス戻ってないの....?」

「....はい」


私を心配そうに見つめる唐之社さんの視線が刺さる

その上の画面には相変わらず横になっている狡噛さんと会話をしているスーツを着た女の人の映像


「.....あれ」


もしかして....


「あぁ...今ちょっと先客がね。配属初日に慎也君撃っちゃうなんてなかなか大胆よね」

「そ、そうですね...」


あれが常守さん...
私とあまり変わらない背格好で、私より短い髪

....狡噛さんに謝っているのだろうか
そんな常守さんに微笑む狡噛さん
そしてまたそんな狡噛さんに、頭を下げる常守さん

そうただじっとモニターを見続ける私に唐之社さんは小さく息を吐いた


「行ってきなさい、名前ちゃん」

「え、でもまだ常守さんが....」

「扉の前で待つくらいは大丈夫よ。慎也君もきっと出来るだけ早くあなたに会いたいと思ってるから」

「....分かりました、ありがとうございます」


唐之社さんは医務室へ歩き出す私を笑顔で送り出した









見えて来た扉に緊張しながら近付く

どんな話をしてるんだろう
常守さんにどう挨拶しよう

そんな事を考えていると、徐々にはっきりとしてくる二人の声

まるで盗聴でもしている様な気分だが、聞こえて来るものは仕方がないと自分に言い訳した



『....俺にはやり残した事がある、どうあっても始末をつけなきゃならない役目が!』

『こ、狡噛さん!』



苦しそうな狡噛さんの声は、きっとまだ本調子じゃないという事だろう

“やり残した事”

....もしかして狡噛さん、未だにあの事件の事


『まだ動いちゃダメです!私が言うのもなんですけど、安静にしていてください!』

『あぁ、すまん...』

『どうぞ、掴まってください』

『大丈夫だ、自分で戻れる。それに、あんたじゃ俺を支えられないだろ』

『こ、これでも体力には自信があります!』




なんか....なんだかな....


大人しく分析室で待ってれば良かったかも





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