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配属早々、執行官の一人である狡噛さんを撃ってしまった

征陸さんからも"ただ執行官を見張ればいい"と言われ、やっぱり私の判断は間違っていたのかと正直落ち込んだ

そんな私に狡噛さんは、"役目より正義を優先できた"と私の行動は間違っていないと言ってくれた


「私、まだまだ至らない所ばかりですが、精一杯頑張りますので是非ご指導よろしくお願いします!」

「監視官が執行官に指導を請うのか?」

「い、いけませんか....?」

「いや、ただ珍しいと思っただけだ。俺は手加減出来ないぞ」

「大丈夫です!やり遂げて見せます!」

「ハハ、いい心意気だ」



宜野座さんは、執行官を同じ人間だと思うなって言った

でも目の前の狡噛さんは、私を励まし気遣い、笑っている
いくら潜在犯でもそれは紛れも無く私が知る、人間だ


「何か取ってきましょうか?飲み物とか、食べ物とか、欲しい物はありませんか?」

「....欲しいもの....か」


そう途端に何かを考え込むような表情をしだした狡噛さん


「.....狡噛さん?」

「.....なんでもない。そうだな、水を持ってきてもらえるか?」

「分かりました、すぐ戻りますから安静にしていてくださいね!」





私はそう言い残して医務室の扉に向かった

側にあるボタンを押してドアを開くと、


「わ!」

「あっ!」


綺麗にスーツを着込んだ、これまた綺麗な顔立ちの女の....子?人?
自分と比べて、上でも下でもどれくらい年齢差があるか分からなくて困惑していると、


「こ、こんばんは!」


そういきなり深く頭を下げられて、私も思わず


「こんばんは!」


頭を下げた


「あ、えぇっと....お水ですよね!私が取ってきます!」

「いえ!そんな

「名前?」

「え?」


背後からした狡噛さんの声に、小さく肩を震わした目の前の女性
"名前"ってこの人の事なのかな....?


「と、とにかく私が取ってきますので、常守さんは

「うっ....名前、来てくれ」


苦しそうな声に振り返ると、ベッドから出ようとしている狡噛さんに慌てて駆け寄った


「っ、狡噛さん!安静にしてくださいと言ったじゃな

「待て!名前!....クソっ!....はぁ....」


狡噛さんが声を放った方向を見ると足早に去って行く背中と、そのタイミングで閉まった扉


「常守、頼む。連れ戻して来てくれ」

「でも水を取りに行くだけですし、すぐに戻って来ると思いますが....」

「なら欲しい物を変更する、水じゃなくてあいつだ」

「ええっ?」

「頼む!」

「....わ、分かりました、その代わり絶対動かないで下さいよ!」




あの人誰なんだろう
一係にあんな人居なかったし、二係か三係の人かな?

....初対面でいきなり頭を下げられて、私もそうしちゃったけど失礼だったかな....




分析室に入ると、タバコを吸っている唐之社さんが目に入った

「あの、スーツを着た女の人見ませんでしたか?」

「ここじゃ皆スーツよ?」

「えぇっと、私と同じくらいの背で、黒髪で、肌の白い綺麗な人で....」

「あら、それもしかして慎也君からの注文?」

「はい....さっきまで医務室に来ていた方なんですけど」

「分かってるわ。名前ちゃんでしょ?あの子ならすぐ戻って来るわ。そしたら"プレゼントです!"って慎也君に渡してあげて」


....プレゼント?
確かに"欲しい"とは言っていたけど


「....その、名前さんって方は監視官ですか?私一係以外はまだよく分からなくて....先輩だったらちゃんと挨拶しないと....」

「それは安心して、あの子は刑事課じゃないわ」

「....え?そうなんですか?」

「えぇ、あの子は名字名前ちゃん、人事課の職員よ」

「人事課....がどうしてここに来ているんですか?」


しかも潜在犯で執行官の狡噛さんと会うなんて、大丈夫なのかな




そんな事を考えていると、突然響いた扉が開く音に振り返った
その手にはペットボトルの水と、缶コーヒー
名前さんブラックなんて飲まなそうな顔....って顔で決めつけちゃダメだ


「あ、あのこれ、狡噛さんに水とコーヒーです。水って言ってたんですけど、普段このコーヒーをよく飲んでいるので一応....」

「.....分かりました、行きましょう。私が同伴します」


さすがに監視官の立ち会い無しに、執行官に会わせちゃいけないはず
逆に、差し出された飲み物を受け取って私が一人で行けば、狡噛さんとの約束を破ることになる


「え...?....常守さんは狡噛さんと話をされていたようですし、私が行ったらお邪魔かと....」

「狡噛さんにあなたを連れ戻すようお願いされました」

「っ....」


驚いた顔をする名前さんに、潜在犯に呼び出されたんじゃ怖いのも無理はないと納得する


「監視官である私が一緒に行きますので心配しないでください。名前さんに危害が加わる事はありません」


あたふたする名前さんと、その後ろで必死に笑いを堪えている唐之社さん
....どういう状況?


「....わ、私何か変な事言いましたか....?」

「いいえ大丈夫よ朱ちゃん、じゃほら、二人とも行ってらっしゃい!」





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