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「....つまり、あの場における判断に間違いは無かったと。それが君の結論か、常守監視官」


俺もまさか常守が撃てるとは思わず、"止めたければ撃ってみろ"と言ってしまった事に多少の責任は感じている

二十歳の女が配属初日に潜在犯の執行を妨害し、執行官を撃ち、先輩監視官にその行動を咎められた

普通なら弱音を吐きそうなものだが


「はい、彼女の犯罪係数上昇は一過性のものでした。事実、保護された後のセラピーも経過は良好で、サイコパスは回復に向かっています」


意外と芯のあるやつだ
常守はなかなか筋がいいかもしれない



「....狡噛、何か言いたい事は」


そう今度は俺に向けられた声は、どう考えても納得の行っていない様子だった


「無い。常守監視官は義務を果たした、それだけだ」


もしここに、あの時の名前の目標通り名字監視官がいたらどちらの側に着いただろうか

撃たれた事を許し、被害者を守ろうとした常守を間違っていなかったと支持した俺か
ただ任務を遂行していた執行官を撃ち、事件の解決を阻害した常守の判断を認めないギノか

まぁそもそも名前が監視官なんて想像も出来ないがな









「っ、縢」

「センセーから聞いたよーコウちゃん」


いきなり肩を組んで来た縢が言いたい事はなんとなく察しがつく


「朱ちゃんの前で名前ちゃんに噛みついちゃったんだって?」

「っ!あれ本当にびっくりしたんですよ!」


すかさず反応して来た常守は、やや頬を紅潮させていた

その反対の席のギノを見ると顔色一つ変えずにただパソコンと向き合っている


「あんたには少し刺激が強かったか?」

「わ、私はお二人の関係も知りませんでしたし、あんなに突然じゃ誰でも驚きますよ!」

「コウちゃんはホントいつも大胆っすよねぇ、幸せそうで何よりだけど」


縢が言うように、本当に名前が幸せならいいんだが
実際時より曇った表情をし、決断も下せていない名前は、少なくとも今は幸せだとは思えない



「それでも人前ではやめてもらえると助かりますね」

「相変わらず堅いねー、クニっちだってコウちゃんサイドっしょ?」

「それとこれとは別問題よ」



....どうしたらいいんだ
早くして欲しいわけじゃないが、普通に気がかりだ

あいつの色相の濁りだって、このまま放置していられないだろ
なのに俺はその原因も改善策も分からない
その一方で何もしないギノにも苛立つ












「....あれ?名前ちゃん、」


縢の声と同時に聞こえたドアが開く音
もうそんな時間か


「っ....」


現れた見慣れない姿に、俺は全ての思考を止めた


「なんで今日パンツ?ネクタイまでしちゃって、クニっちみたいじゃん」

「あぁ...ちょっとイメチェンしようかなって...似合わないかな....」

「そもそもパンツ持ってたのね」


そう発言したのは、縢の言う通りそっくりな装いの六合塚


「はい、一応作ってもらってはいましたけど、あまり履く機会も無かったので....」


そういえば昔、名前が公安局に就職してすぐの頃、過保護なギノが"パンツスタイルにしろ"と言ったのを無視して、結局スカートで来た名前にギノが一日中不機嫌だった事があったな

それほど名前はスカートの方が好きなんだと思っていたが、何故このタイミングでパンツなんだ?

それにあの深い緑のネクタイは....


「....名前、お前それは前に伸

「わぁ!お父さん言わないで!」


きっととっつぁんが言いたかったのは、"前に伸元が着けていた物じゃないか?"

同感だ


「....え?名前さんって征陸さんの娘さんなんですか?」


そうこの上なく複雑な話題の疑問を口にした常守は、自分の隣にいる人物こそが本当の息子だとは知らない

そんな息子は相変わらずこちらに目もくれない


「常守、それは今度名前本人に聞いた方がいい」

「え、今はダメなんですか?」

「あぁ、今は俺が借りる。ギノ」


やっと交わった視線は数秒の沈黙を経て、また直ぐに逸らされる


「....10分だ、1秒でも遅れるな」

「努力する。名前、ちょっと来い」

「え、あ....」


俺はその腕を引き、共に一係オフィスを退室した





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