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「えっと....だ、大丈夫ですか....?」



そう俺を見つめた名前に、俺は"お構いなく"と小さく頭を下げた

そんな所からもまた余計な事を考えてしまう


律儀で生真面目、それでもって感情的
冷静に物事を捉えるが、事柄によっては周りが見えなくなる
表面上の見かけは正反対に思えそうだが、その根本はあいつとそっくりだ



「.....狡噛さんから私に対する好意や愛情を感じる度に、すごく、不安になるんです....」

「....ど、どうしてですか?私から見ても狡噛さんは本当に名前さんを

「分かってます。....分かってるんです、だから狡噛さんを疑ってるわけじゃありません....」


....なら何だ?
泣いてしまう程苦しい不安
その原因は何にある?


「そのせいで私、色相が悪化してて....」

「っ...!」

「そ、そんな!大丈夫ですか!?」



好転すらしていなかった名前が、さらに濁っているのか?
名前、お前はそこまで追い詰められてるのか?

俺はテーブルの下でそっとデバイスを起動した


「はい、なんとか.....もちろん狡噛さんには会いたいです。でも、また抑えられなくなって色相が悪化したら私もう....結構危ないんです....」

「どうしてもその不安に思う原因が分からないんですか....?」

「.....分かりません」



俺はデバイスに表示されたその数値に愕然とした

89



「カウンセラーとか、行ってみましたか?」

「....行きたくないんです。余計濁りそうな気がして」

「....それでも!このまま放置するわけにはいきませんよ!....名前さん、」


そう名前の手を取った常守は、両手で包み込んだ


「え、は、はい」

「私で良ければ全力でサポートしますから!一人で抱え込み過ぎると精神状態にもよくありません。縢君とかも皆名前さんの味方です!もっと頼ってくれて良いんですよ!」

「....そ、そうですね....ありがとうございます」



犯罪係数89
色相ダークブルー

とてもじゃないが無視できない



「まずは事実を整理してみましょう!狡噛さんにいつか嫌われてしまうと思いますか?」

「....いえ、そんな事はない....と思います」

「では、狡噛さんが他の女性に目移りしてしまうと思いますか?」

「....狡噛さんがそれはしないと、言っていました」

「狡噛さんが言っていたかどうかは重要ではありません。これは名前さんの感情に関する事です。他の人がどう言おうと、名前さんが本当に思う事が反映されますから」

「....正直それが心配じゃないのかと言われたら嘘になります。永遠に私一人を見続けてるくれるとは誰も保証できませんから....でも、それが原因じゃないんです。自分で分かります。私は何か別の事に囚われているんです」



....結局心からは信じてもらえていないんだな
それにため息をつけば、目に映るスキャンの結果にどうすれば良いのかも分からない

カウンセラーにも行かない
そしてそれはギノが名前を連れて行っていない事にもなる

こんなにも瀬戸際な状態なのに、あいつは何をしてる?

あいつなら無理にでもカウンセラーに連れて行きそうなものだが



「なら、これは私だったら不安に思う項目なんですけど、もしかして名前さんは狡噛さんに充分に愛されていないと思ってるんじゃないですか?確かに側から見れば名前さんは物凄く愛されていると思いますが、これもまた名前さん本人がどう思うかですから」

「....いえ、私は満足しています。狡噛さんがどれほど私を思っているのかは伝わってますから。それでもさっき言った通り今後どうなるか心配ではあります。狡噛さんを信じていないわけじゃないですよ!ただ常識的に考えて、永遠ほど不確かなものはありませんから....」



そこで唐突に鳴り響く着信音に、三人全員が自分のデバイスを見る



「す、すみません...私です....」


そう言って席を外した名前
まさかと思い時間を確認すると、案の定21時13分


すぐに戻って来た名前は慌ただしくカバンを取った


「本当にごめんなさい!私もう帰らないといけなくて。お金ここ置いておきますね」

「そ、そうですか、気を付けて帰って下さいね」

「はい、今日は本当にありがとうございました。常守さん、佐々山さん。また機会があったらよろしくお願いしますね」





そのまま立ち去って行った背中

どうもそれが辛そうで






「....なっ!狡噛さん!?」

「大丈夫だ、逃げたりしない」

「いや、待って下さい!狡噛さん!....あ、お会計!」



食事代の精算に阻まれた常守を置いて、俺はもう見えなくなっていた背中を追った











外に出ると来た時よりも雨脚が強く、カバンを頭の上に乗せて走る姿を見つけ全力で駆け出す


「名前!」


そう雨音に掻き消されないように叫ぶと、立ち止まりこちらを振り返る




「さ、佐々山さん....?....え、ちょっと!」



濡れ切ったスーツを抱き寄せると、その反動にカバンが地面に落ちる音




「や、やめて下さい!セクハラで....っ!」




降り注ぐ雨にノイズが酷くなっていくホログラム




「な、なんで....どういうこと....ですか....?」

「これくらいなら大丈夫か?」

「....は、はい.....」

「ならもう少しだけこのままで居させてくれ」




たった数日でこんなにも衝動が溢れる

だが何が名前の不安を引き起こし、色相を濁らせるのか分からない今、慎重にならざるを得ない

本当なら今すぐにでもその全てに触れたい
全てを伝え与えたい

そんな感情を強く抱きしめる腕に込める




ただ猛烈に雨が俺達を打ち付ける中

名前は何も言わず、黙って俺の抱擁を受け入れた



「名前、」


そう名を呼ぶと、胸の中で俺を見上げる

その頬に俺の髪から滴り落ちた水滴が、まるで涙のように伝っていく


「会いたかった」





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