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「今回の事件の報告書、君はどう処理をするつもりだ」


"狡噛さんの計画を試してみたい"と言った結果、私は拍子抜けした

"話しをするだけ"だと思っていたら、いきなり対象をトイレの個室から引き摺り出して罵声を浴びせる光景に、自分の目を疑った

どう考えてもやり過ぎで無茶な策だ


「でも無事事件を解決することができました。それが私達刑事が共通認識する目標ではありませんか?」



宜野座さんが運転する車で公安局に戻る道すがら

....怒っているのだろうか

それに征陸さんに食い掛かったあの態度
六合塚さんには地雷を踏んだと言われたけど、やっぱり何かあるって事だよね

征陸さんと言えば、未だに名前さんと親子なのか聞けていない
名字が違うのに"お父さん"と呼んでいた
実際征陸さんにお子さんが居たら、名前さんくらいの歳で不思議はない

....もしかして"お父さん"のように慕っているとか?
....でも人事課で一般市民の名前さんが、潜在犯で執行官の征陸さんとどうやって知り合うんだろう
つい最近執行官になった訳でもないし





先輩監視官と無言の中、聞こえて来たのは私のデバイスの音

「すみません、私です」

確認すると名前さんからのメッセージで、今現場に出ているのかと言う質問だった


ホログラムを纏った狡噛さんと三人、一緒に食事をしてからも名前さんは狡噛さんに会いに来ていない

色相の事も心配だったから、大丈夫かとメッセージを送ったら"風邪を引いてしまい寝込んでました"と

今はもう元気だと言う名前さんに私は、今日刑事課に来て欲しいとお願いした

狡噛さんに、私が通うカウンセラーに名前さんを連れて行ってあげてほしいとお願いされたからだ

実際狡噛さんに言われなくとも、私もそうしようと思っていた

犯罪係数89に色相ダークブルーなんて、知人としてだけなく監視官としても見過ごせない


私は"あと5分程で戻るので、そこで待っていてもらえますか?"と返信した



「そう言えばどうしてあの日、私が狡噛さんと名前さんを会わせようとしていたのが分かったんですか?」

「....君には関係無い」

「....宜野座さんって、何か楽しみありますか?」

「....は...?」

「お見受けする限りいつも仏頂面ですし、そんな様子じゃ幸せなんて訪れませんよ」

「....余計なお世話だ」

「彼女さんとかいらっしゃらないんですか?もうすぐ30に....っ....すみません」


キッときつく睨まれると流石に萎縮する


「もし名前さんが狡噛さんのプロポーズを受け入れたら、一係みんなでお祝いしましょう!全員の外出を許可して、どこかのレストランの個室を借り

「勝手にしろ、俺は外れさせてもらう」

「....ご自分がそうじゃないからって、他人の幸せを妬むのはいけませんよ。いくら部下で執行官と言えど、同じ仲間なんですから」

「執行官とは一線を引けと言ったはずだ。奴らを同じ人間だと思うな」

「....私は執行官の皆さんとも上手くやっていけます!現に狡噛さんとの外出も、結果として何も問題はありませんでした」

「一般市民を高熱で寝込ませておいて、どう問題が無かったと言う」

「....え...?ご存知なんですか....?」

「早く降りろ」


気が付くと公安局ビルの地下駐車場に到着していて、先に降りた宜野座さんに続いて、私も助手席の扉を開けた









護送車から降りた執行官達とエレベーターで41F、刑事課フロアに移動すると、狡噛さん以外の三人の執行官はそのままエレベーターを降りず宿舎に帰っていった


....あれ?
廊下の先の一係オフィスから明かりが漏れていない

名前さん帰っちゃったのかな?



先導を切る宜野座さんが明かりを付けると


「...っ」


狡噛さんの席に座っている名前さんと、それを見つけた宜野座さんの間に一瞬妙な空気が流れた


「常守さん、この間はありがとうございました。途中で帰ってしまってすみません....」

「いえいえ!用事があったんですよね?」


あの時通話をとって急に、帰らなきゃと言っていた名前さん
ご家族の方だったのかな


「体調の方はもう大丈夫なんですか?」

「はい、もうすっかり元気です!」


そう笑って見せてくれた名前さんに、狡噛さんが惚れるのも分かるかもと思った


「えっと....何か私に用事があるんですよね?」

「あ、はい。....名前さん、」


私はその手を取り両手で握った


「一緒にカウンセラーに行きましょう」

「....え...?」

「なっ、常守監視官!勝手な行動は困る!」

「ギノ!名前はもう限界だぞ!あいつの色相を知らないのか!?」

「....またお前の策か、余計な事をするな!」

「宜野座さん!これは全く余計な事ではありません!ご存知ないと思いますが、名前さんの犯罪係数は89、適切な処置をしないと手遅れになってしまいます!以上を踏まえても、宜野座さんがこの件を止める筋合いはありません!」

「....わ、私もう、89なんですか....?」


震える声でそう呟いた名前さんに、私はデバイスでスキャンをした


「....っ!93....もう待てません!今すぐ行きましょう!大丈夫です、私が一緒に行きますから」

「.....名前、行きたくないなら無理に行かなくていい」

「ギノ!いい加減にしろ!」


そう普段とはまるで違う優しい声を発した宜野座さんに、まさかという思いが生まれる

....名前さんが好きなのかな?

だから名前さんが狡噛さんと居るのを良しとしないのかも

そう思うと益々そんな宜野座さんが邪魔者に思えてしまう
他人の恋愛に口を挟むばかりで無く、こんなに高い数値でカウンセラーに行かせたくないなんて


「名前さん、宜野座監視官の事は無視して大丈夫です。あなたのサイコパスが今一番大切なんです。よく考えて決めて下さい」

「....行きます」

「っ、名前!」

「私が行くって言ったの!」


そう強く言い放った名前さんに驚いたが、さらに驚いたのがその声と目を向けた相手


「連れてって下さい、常守さん」

「あ、は、はい」





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