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「....お前、名前と喧嘩でもしたのか....?」
女性二人が出て行き、二人きり残された刑事課一係オフィス
「話す事など無い。それよりお前は今日の事件への態度を見直すべきじゃないのか」
「ギノ、
「元監視官とはいえ、やはり落ちた身ということか」
「....何やってるんだ!93だぞ!お前こそあいつを潜在犯にさせたいのか!」
俺はどうしても抑えきれずその襟元を掴み上げた
何を考えてる?
ここしばらくただギノの管理下にあったはずの名前が、着々と数値を上げている
俺の知らないところで何が起きてる?
「....勘違いするな。あいつがなぜ今までカウンセラーに行かなかったと思っている?何も知らないで勝手に自分の行いが善だと決め付けるな」
「名前は、カウンセラーは余計濁りそうな気がすると言っていた。だからお前が通っているのとは別のカウンセラーにした。可能性はある」
「あぁ、あいつが本当に濁る可能性がな」
「....っ、相手はカウンセラーだぞ!それに常守も付いてる」
「無駄だ。お前ですら止められない名前を、知り合って間もない新人監視官と初めて顔を見るカウンセラーが本当に制御できると思うのか?」
「ならお前はなぜ止めない!名前がこのまま濁ってもいいのか!?」
「止めなかったのはお前らだ!....それに、あいつは自分で行くと決めた」
「あいつが自分で決めたとしても、それが間違ってると思うなら止めればいいだろ!」
「お前はあいつを幸せに出来ると思っているのか」
「.....?あぁ」
「それで名前に拒絶された場合、お前はそれが名前の幸せじゃないと言ってあいつを止めるのか?あいつの選択は間違っていると止めるのか?」
「.....」
「自惚れるな」
「....どこに行くんだ」
「お前に何の関係がある」
俺は間違っているのか?
両思いだと気付き告白した事も、
好きな者同士幸せになるべきだと覚悟を誓った事も、
今こうして心配してカウンセラーに行かせた事も
全て俺の思い過ごしなのか?
一人残った室内で、ふと自分のデスクの椅子にジャケットが掛けられている事に気づく
あの時名前に貸したものか
それを手に取ると、香って来た匂いが俺の嫌悪感を増幅させる
....名前の匂いでもあるのにも関わらず
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「えぇっと....名字名前さん。普段は向島先生の所に行かれているようですね。サイコパスも過去にも何度か基準値間近まで悪化したことがあるようで」
「....はい」
カウンセラーと向かい合い、私の隣に座る名前さんは、やや俯いてずっと一点を見つめている
先生には事前に名前さんの状況は伝えておいた
前にも何回かあったって....名前さんは濁りやすい体質なのかな
もしかして、だから監視官という夢も....
「それでも毎度しっかり元の数値に改善されていますが、同じメンタルケアを?」
「....ど、どうでしょう....色相が濁ったのは毎回異なる原因でしたから。基本的には特別何かをしたわけじゃありません」
「ご家族はどんな見解を?」
「.....」
「....名前さん?」
震える程スカートの裾を強く握り出した名前さんに、私は先生に顔を向けた
するとすぐに精神状態を確認してくれて、結果は案の定揺れ始めていた
「話題を変えましょう。好きなドラマや、映画などはありますか?」
「....コメディーや恋愛物、ミステリーでも大体何でも観ます」
「近頃はどうですか?最近話題になっている映画はご覧になりましたか?」
「....いえ、ここしばらくはあまりメディアには触れていません」
「良かったら予告だけでも観てみませんか?」
「は、はい....」
先生が名前さんに手渡したタブレットには、約3分程の動画
その内容はいわゆるギャグ系のもので、私は時々笑い出しそうになったが、表情を一切変えない名前さんに私は必死に我慢した
「....名字さんの好みには合いませんでしたか....?」
「え、あ、いえ....すみません、少し別の事を考えてしまって....」
「....それほどその"不安"に囚われているんですね....常守さんからお話は伺っていますが、あなたの口から聞いてもよろしいですか?辛いようでしたら、すぐにやめてもらって構いませんので」
先生の要求に名前さんは、大きく深呼吸をしてより深く俯いた
「.....高校の時から、カッコよくて優しい狡噛さんが大好きで、でも気持ちを伝えられる程勇気も無くて....いつもただ近くに居れるだけで嬉しかったんです....」