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「もー名前ちゃん早くコウちゃんとくっ付いちゃえばいいのにー。見てるこっちがもどかしいんっすよ」
「無理言うな、あいつにも考える時間が必要だ」
「だってどう見てもコウちゃんのこと大好きなのにー。ギノさんを気にしてるんだろうけどさぁ、俺らと違って名前ちゃんはギノさんに絶対服従じゃないんだからさー」
ギノに名前が連れて行かれて、縢の部屋に残ったのは俺だけだ
志恩と六合塚は察せるとして、とっつぁんも“主役である名前がいないんじゃな”と帰って行った
「いくら20年?一緒にやってきたとしてもさ、じゃあ“お母さんと20年一緒に居るから、結婚しません”とか無いっしょ?どんだけ長い時を一緒に過ごして来たんだとしても、コウちゃんとの事は別問題でしょ」
「....俺もそう願ってる」
「なに、願ってるって。まさかコウちゃん、名前ちゃんがギノさん好きだとか思ってんの!?」
「いや、それは無いだろうな。あの二人に恋愛感情は無い」
「.....なら何迷ってんだか。百歩譲ってだよ!仮に名前ちゃんが、“狡噛さんと結婚したら伸兄が一人になっちゃう、それは可哀想だから出来ませーん”って思ってるんならまだギリギリ分かる」
そうフォークに刺さった唐揚げを俺に向ける縢
「でも、コウちゃんの最初の告白の時ですら迷ってたじゃん!別に付き合うくらいならギノさんに影響無いっしょ?実際ギノさんも名前ちゃんに“好きにしろ”って言ってんたんでしょ?」
「それを俺に言ってどうする」
「はぁ....恋愛感情のゴールが結婚して愛し合う二人なんだから、それをタダであげるって言ってんのに取らないなんて、俺はまじで分かんねぇよ」
「まだ取ってないだけだ、それに
ピンポーン
突然響いた部屋のチャイム
「あれ?誰か忘れ物っすかね?」
「俺が行こう」
ソファから立ち上がってそのドアに向かって歩きだす
「....っ、名前?」
「も、もう終わっちゃいましたか....?」
「残ってるのは俺と縢だけだが....」
“とりあえず入れ”と入室を促すと、素直に縢が待つテーブルへ歩みを進める
.....どういうことだ?
帰ったんじゃなかったのか?
「あれっ!?名前ちゃん!?なんで!?」
「せっかくセッティングしてくれたのに帰っちゃうのは悪いかなって....ダメかな」
「いやいや全然歓迎だけど....」
「ギノはどうした」
「俺また修羅場嫌っすよ!」
そう言えばカバンを持っていない名前は、そのままソファに腰を下ろした
「いえ、伸兄にはちゃんと許可を貰いました。21時には帰るって約束したので、あと2時間は居れます」
そうごく当然の事のように言う名前に、俺と縢は驚きを隠せなかった
「....え、ギノさんが許可したって....?」
「うん、カウンセラーはさっきちゃんと行って来たよ」
「本当に、ギノがお前がここに戻って来るのを許可したのか....?」
「....な、なんで二人とも信じてくれないんですか....?」
「だってあのギノさんだよ!?さっきめちゃくちゃ怒ってたじゃん!」
「そうだけど、私に“行って来い”って言ったのは伸兄だよ」
「え!?名前ちゃんがお願いした訳でも無いって事!?」
「.....ご、ごめん....なんか私が戻って来たくなかったみたいだね。そういう意味じゃないからね?」
わざわざここまで来て、名前を強制的に連れて行ったギノが....?
まるで罠にでもハマってる様な気分だ
それ程自信があるという事か....?
「ギノさんってツンデレなの?あ、もしかしてコウちゃんの“常識外れ”ってやつが刺さったんじゃないっすか!」
「そんなに気にしてる感じはしなかったけど....」
「まぁ、せっかくだ。あいつの事は置いといてこの場を楽しもうじゃないか」