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「はぁっ....んっ....」





俺の上で美しく乱れる姿に、逆に優越感を感じていた





側にはバイブレーションが止まらない名前のデバイス




それを取り時間だけ確認すると21時27分




着信主は明らかだった




ギノ、すまないがこんな所で止められる程俺は理性的じゃない








そしてそれは今、名前もまた同じなはずだ




















どうしてこんな事になったのか




それは縢が気を遣い、パーティーはお開きにして名前と部屋に行けと示唆した事から始まった




部屋に戻り、時間まで何をしたいのかと聞いた俺に、“話がしたい”と答えた名前



その真剣な眼差しに、まさか決断を下したのかと思ったが、その内容はどっちとも取れるようなものだった




『狡噛さんは、私の為だったら何をどこまで出来ますか?』

『....どうした、カウンセラーで何かあったのか?』

『と、とにかく答えて下さい!』

『.....そうだな....お前の為なら命も惜しまないさ』

『そ、それは流石に極論過ぎます!もうちょっとこう....具体的に....』

『ならお前がもっと分かり易い質問をしてくれ』

『.....じゃあ、例えば....例えばですよ?』

『あぁ』

『私がもし....全てを失って絶望して、自ら命を断とうとしたらどうしますか?』

『おい、そんな物騒な話は

『答えて下さい!ただ、答えて下さい』

『....止める、当たり前だろ?』

『.....そ、そうですか....』



途端に俯き出す名前に、俺は何か間違えてしまったのかと焦った



『もしどうしても止められなかったら....、何を言っても私が聞かなかったらどうしますか....?』

『意地でも止めるさ、物理的に体を動かすなら絶対に負けない。いざとなればお前の腕を折ってでも止める』

『....さすがに怖いです』

『骨折くらいならすぐ治るさ。それで命が守れるなら安いどころの騒ぎじゃないだろ?』

『まぁ....そう...ですね』



そうまた悲しそうな顔をする名前



『な、なんだ』

『....いえ、ただ気になったので....』

『....俺の答えに満足出来なかったか?』

『そういう訳じゃ....ないんですけど....』



俺はどうしても名前の考えている事が分からなかった

何を求めているのか分からなかった


何がいけなかった?

止めて欲しくないのか?

黙って自害させてくれとでも言うのか?


そんな事出来るわけないだろ




『.....少しお水貰いますね』

『あ、あぁ...』





俺はまたギノと比べられてるのか?

....いや仮にそうだとして、あいつこそ止めない訳ないだろ

あいつでもきっと俺と同じ事を言ったはずだ






『んっ!?かはッ!』



そう突然響いた異音に慌てて振り向いた



『どうした!』

『これっ....なん....』



そこには透明なガラス瓶から注がれた、透明の液体が入ったグラスを手にふらふらと崩れて行く名前


『名前!おい!』

『暑い....暑いです...』

『....っ!』




そうだ

普段は水を入れて冷蔵庫に入れていたのだが、とっつぁんがお裾分けをしたいと、たまたま空いていたこの瓶に入れたんだった



アルコール度数96度のスピリタスを



さすがに水で薄め割ってあるが、そもそも強くもない名前には一口でも終わりだろう



『クソっ』



急いで水道から本物の水を注ぎ、床に座り込む名前に無理矢理飲ませたが、その唇の端から多少溢れてしまう


顔を赤くしぼーっと口を開いて俺を見上げる姿を、どうしても欲している様にしか見えない自分を殴りたくなった


もう二度と間違いを起こさないと誓った以上、求められてもいない、了承も無い名前を抱く事は出来なかった



....それでもせめて



『....名前、飲んでくれよ』



自らの口に水を含みそれを流し込んでやる



『んっ...ッ!』



俺の首の後ろで2本の腕が絡まると、そのまま引かれ地面に倒れ込む体を咄嗟に床に手をついて支えた



『はぁっ....狡噛さん....』

『....なっ、名前っ!』

『好きです....本当に、好きなんです....』



そう俺のセーターの中に這って来る指に、俺の意思は弱まるばかりだった



無理だ








こんなの、



止められはずがないだろ





『....後でまたビンタするなよ』


『んぁっ....大好き....なんです.....』




まるで自分に言い聞かせている様な名前の考えはやっぱり分からない


だが今はそんな事は忘れ


何もかも脱ぎ捨て


全ては二人の為だけの空間






『愛してる、名前』





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