▼ 147
「マジ!?ちょっとコウちゃんどういう事!?」
名前さんが、改姓....?
「....そろそろ話したらどうなんだ、ギノ」
「....見ての通りだ、何も話すことは無い」
「私はあの子の口から聞くまで信じないわよ!」
「勝手にしろ、それより仕事を
「ちょ、ちょっと待って下さい!名前さんと宜野座さんはご兄妹なんじゃないんですか?そんな二人が結婚なんて....」
「ハハハッ!」
確かに名字は違うけど、それには何かの事情があるんじゃ....
住所も同じだし、名前さんは宜野座さんの事を"伸兄"と呼んでいた
そんな私の真剣な疑問に縢君はお腹を抱えて笑っている
「朱ちゃん、それ本気で思ってる?」
「....え?」
「どっからどう見ても似てないっしょ、名前ちゃんとギノさん」
そこで改めて宜野座さんの顔を見る
「....まぁ、そうだけど....じゃあどういう事?」
「ギノさんもそろそろ教えてあげなよ」
「....知る必要は無い」
「まぁそう言いなさんな、共に戦う仲間じゃないか。自分を知ってもらうのも一つの信頼だろう」
「.....」
征陸さんの説得にも口を閉ざした宜野座さんは、本当に言いたくないのかもしれない
それなら無理に聞き出しもしないけど、見かねた征陸さんが話し始めた
それを宜野座さん含め誰も止めなかった
「そ、そうだったんですか....」
征陸さんの話によると、名前さんと宜野座さんは共にご両親を失くしていて、小さい頃から一緒に育って来たそう
血縁関係は無いけど、実質お互いが唯一の家族
「....では、名前さんが征陸さんを"お父さん"とお呼びしているのはなぜでしょうか」
「それはな、
「もういいだろ!これ以上の無駄話は許可しない!」
その一声に、全員が渋々本題である葉山公彦の話に戻った
....じゃあ最近名前さんが元気そうだったのは、結婚をしたから?
あんなに狡噛さんが好きだったのに?
狡噛さんの機嫌が悪いのもこのせい?
結婚の事を知ってたのかな?
その後宜野座さん、六合塚さん、縢君の三人は逆探知の線で
私と狡噛さん、征陸さんは、何か別のルートで葉山公彦に近付けないかと捜査を続けた
そして私は、自分のせいで同級生を死なせてしまった
そんな私に狡噛さんは"俺たち全員の落ち度だ"と言ってくれた
それでも私たちは犯人、御堂将剛を突き止め、宜野座さん達のチームが執行に成功した
事件解決後、宜野座さんは私に狡噛さんの人事ファイルを送信した
"目を通したら破棄しろ"と付け加えて
そのファイルから得た情報は私を驚かせた
狡噛さんは元監視官で宜野座さんと同期、公安局広域重要指定事件102にて犯罪係数が上昇し執行官に降格
....公安局広域重要指定事件102
私はそれがどんな事件だったのかが気になった
狡噛さん程優秀な人を、執行官に降格させた程の事件
"本当に削除しますか?"
"はい"
言われた通りファイルを破棄してから、私は一係のオフィスに戻った
そこには今週まだ見かけていなかった名前さんが来ていて、ちょうど右手を怪我した宜野座さんに何があったのかと心配しているところだった
その左手には今朝話題になった物と同じ指輪が
縢君が執拗に、"本当にギノさんと結婚したの?"と迫る中、狡噛さんは静かに報告書を打っていた
「....あれ?伸兄やっと言ったの?」
「言っていない」
「うわ名前ちゃん今の肯定したよね!?」
「え、まぁ...うん....」
溜息を吐きながら額に手を当てた宜野座さん
.....名前さん本当に狡噛さんを断ったんだ.....
でも実際に幸せそうなのを見ると、関係の無い私には嬉しい事案だった
「マジかよ....やっぱり信じらんねーよ!あんなにコウちゃん大好きだったのに、どうしたんだよ!名前ちゃん!」
そう名前さんの肩を掴んだ縢君に、宜野座さんが立ち上がった
「やめろ!お前には関係の無い話だ!さっさと報告書を仕上げろ!」
「コウちゃんもなんか言わないの!?名前ちゃん結婚したんすよ!?」
「しゅ、秀君....」
狡噛さんはキーボードを打っていた手を止め、ゆっくりと名前さんに座ったまま体を向けた
やけに重たい空気に私は押し潰されるような感覚がした
「....名前、お前は今幸せか?」
「はい、とっても幸せです」
そう名前さんは柔らかく笑った
「.....そうか、ならいい」
それだけ言い残し、狡噛さんは再びパソコンに向かった
「ちょっ、コウちゃんそれだけ!?いいの!?」
「お前も聞いただろ、あいつは幸せだ。それを壊せと言うのか?」
「....名前ちゃん本気なの!?本当にギノさんで良かったの?コウちゃんが好きなんでしょ?またギノさんに変な事言われたんじゃないの?」
「....変な事とは何だ」
「ギノさんには聞いてないっすよ!」
「縢君、落ち着いて」
私は泣き出しそうなその背中にそう呼び掛けたけど、私以上に効果をもたらしたのは悲しそうな名前さんだった
「....ちょっ、何で名前ちゃん....俺なんかまずい事言った....?」
「....伸兄は、悪い人じゃないよ。仕事も真面目にやってるし、私の事も一番に考えてくれてる」
「....でも!だって名前ちゃんは、
「....あ、狡噛さんどちらに?」
「休憩室だ、すぐ戻る」
開かれたドアから、振り返らず出て行った背中
「秀君、今までいろいろ応援してくれてありがとう。でもちゃんと気付いたの。私は本当に伸兄を愛してる」
「.....あっそう.....分かったよ、もういいや.....」
「ちょっと縢君!待って!」