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「好きなのに.....好きなのに.....」



そう泣きそうにも聞こえる様な震える声で呟く名前は、ただ強く俺の手を握っていた


見た事無い程積極的だった名前が途中から徐々に気が弱くなっていった様子に、こんなに後味の悪い情事は無いと頭を抱えた


好きだと繰り返し伝えてくれているのに、この上なく不安を感じる


その理由が分からない



「....あっ、もう10時....帰らなきゃ

「名前、」



起き上がろうとする体を再びベッドに沈める



「大丈夫だ、あいつにはもう伝えた」

「....え...?」

「だから、今夜はここに居てくれ」

「ちょっ、ちょっと待って下さい!....私のデバイス....っ、狡噛さん!」

「見ろ、名前」




俺は名前のデバイスでギノとしたやりとりを見せた


“ごめん、やっぱり明日帰る”

“分かった”





「っ....」

「ギノは了承した、何も問題無い」


そのスクリーンに大きく見開いた目は、ゆっくりと俺を捉えた



「....どうして....どうしてそんな事....」

「....っ、おい!」

「どうしてそんな勝手な事したんですか!私は帰りたくないなんて一言も....!」

「お前から迫っておいて俺と居たくないのか?」

「あ、あれは私も良く....分からな....」


まさか完全に酒のせいにして、本当は全く望んでなかったとでも言うのか


「俺はお前と一緒に居たい、あいつもそれを了承した。邪魔するやつは誰もいない」

「.....嘘だ....嘘に決まってる....」

「....信じてくれないのか?」

「そうじゃなくて!伸兄が了承するはず無いんです!デバイス返してください!」



俺は仕方なくデバイスを返した、というより奪われたのだが、ギノが“分かった”と返信して来たのは紛れもない事実だ

俺が何かカラクリを仕組んだわけでもない

ただそれが真実で現実だ


それに納得出来ないのか、通話を掛けようとする名前に慌てて再びそれを取り上げた



「なっ、返してください!」

「何故だ!今お前の目の前にいるのは俺だ、何故俺を見てくれないんだ!」

「.....」

「お前は何度も俺を好きだと言った。そして同様に俺もお前に覚悟を伝えた。ギノを気にするのは分かるが、何も帰さないとは言っていないだろ。今夜だけ、今夜だけは俺に預けて欲しいと言ってるんだ。実際ギノもそれを了承したというのに、何をそこまで焦ってる」

「.....私は....」

「名前、離したくないんだ。頼む。お前にとってギノは大切なのは分かってる。だからお前がどんな決断をしようが責めたり咎めるつもりはない。だがせめてこういう時だけは俺だけを見ろ。俺だけを考えろ」

「.....」



潤いを纏った瞳は真っ直ぐ俺を見ているように見えるが、実際のところ名前が何を考え、何を求め、どうしたいのかは全く読み取れない

俺はギノじゃない
名前の思考を逐一理解する事は出来ない


それでも名前が俺に機会を与えてくれるなら、最大限の努力をする
好きだと言ってくれるのなら、俺の全ての愛を捧げたい

それを受け取ってくれるかどうかはまた別の話だ

ただ信じて待つことしか出来ない



「.....名前、俺に情があるなら今は身を任せて欲しい」


優しさで決めるなと自分で言っておいて、今はどんな手を使ってでも引き止めたいと思ってしまう



「....好き....です、でも

「“でも”は今は要らない。ただ黙って俺を見ていろ。何も心配しなくていい」

「.....んっ、こうが....」

「慎也」

「はぁっ、待っ....ぁ」

「今夜だけでいい、名前で呼んでくれ」






絡まる吐息が全てを溶かして行く






滑らかな肌も
濡れた唇も
柔らかな感触も


全て

その全てが今は俺だけの物だ
















そんな優越感に浸り、名前が涙を流した事すら気に留められない


むしろ

「ごめん、許して」

と呟くように謝り続ける名前を、そうする余裕も無くなるように攻め立てれば、思惑通りの嬌声にまた溺れて行く





名前からするあいつと同じ匂いを消し去るように


強く


深く





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