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"私が迎えに行って来るから待ってて"と言った青柳に、俺は仕方なく地下駐車場の自分の車の前に立っていた


しばらくしてエレベーターの扉が開き、青柳と共に降りて来た名前の異変にはすぐに気が付いた

下を向いて歩いていた名前は、俺に気がつくと


「っ!名前!」


一目散に走って飛び付いて来た



その体重を受け止めると、鼻をかすめたのは覚えのあるタバコの匂い




「あら!本当にラブラブなのね!」

「....狡噛に会ったか?」

「狡噛君?会ってないわよ?」


ただ強く押し付けるように俺の胸に顔を埋めた名前に、青柳の手前問いただす事も出来ない


「名前、乗れ」


そう助手席のドアを開けてやると、ゆっくり俺から剥がれ素直に乗り込んだ

後部座席に青柳が乗り、俺はすぐに車を出した









「どう?新婚生活は」

「別に何も無い」

「何かはあるでしょうよ!あなた達結婚したのよ?」

「浮いた話が聞きたいなら他を当たれ」

「そう言えば宜野座君、夜は結構積極的なんだって?保健の授業で赤面しちゃうようなタイプだと思

「今すぐ帰ってもらうぞ」

「....はいはい、すみませんでした」


そんな何の生産性も無い会話の横で、名前は黙り込んでいた

明らかに狡噛と何かあったんだろうが、先程から左腕を掴んで離さない

"運転が出来ないからやめろ"と言っても聞かない名前に、俺はオートドライブにするしかなかった






間も無く、買い出しをしたいと言った青柳の要望でスーパーに辿り着いたが、未だ絡まる腕


「本当に名前ちゃん、あなたの前だと子供みたいね!可愛いじゃない!」

「....悪いが一人で行って来てくれ。俺は名前と車に残る」

「分かったわ。何か欲しいものある?」

「いい。余計な物は家に持ち込むな」

「全く....祝ってあげてるんだからもうちょっと感謝しなさいよ」

「頼んだ覚えはない」







"私が選んだ物に後で文句言わないでよね"と言い残し、車を降りって行った青柳が見えなくなってから、俺は名前の頬に手を添えた


「....何があった」

「.....」

「安心しろ、怒ったりしない」

「私....間違ってた....」

「....あいつに何かされたか」

「伸兄....」


そう俺と額を合わせ、掠れ合う呼吸


「....青柳を帰らせるか」

「それはダメ、せっかく祝ってくれようとしてるんだから」

「....はぁ....お前はもう少し自分の感情を優先しろ」

「ん....」

































「缶拾いに来た以来ね!」

「缶拾い....?何の事ですか?」

「あら、名前ちゃん元気になったの?」

「早く座るなり食べるなりしろ」

「本当せっかちな旦那様ね」


俺はダイムに餌を用意し、名前は青柳と共に飲食物をテーブルに広げた

余計な物は買うなと言ったのにも関わらず、大量の酒類


「あ、お父さんから貰ったワイン開ける?」

「征陸さんにワイン貰ったの?」

「そうなんです、結婚のお祝いにって」

「必要無い、これだけでも飲み切れるわけがない。残った物は持ち帰ってもらうぞ、青柳」

「喜んで」


俺は度数の低い桃ベースの物を選び、それを名前に渡した
あまり飲ませたくはないのだが、ここで飲むなと言うのは名前も聞かないだろうと判断した


「じゃあ、宜野座君と名前ちゃんの結婚を祝して!」

「「カンパーイ!」」

「....ちょっと、あなたも乗りなさいよ」

「....乾杯」











....と名目は俺達の結婚祝いだが、殆どは青柳と名前の所謂"ガールズトーク"だった


「せっかくご主人エリート監視官なんだから、もっと大きいダイヤの指輪とか強請れば良かったじゃない!」

「いえ、これが良かったんです」

「本当に?ケチられたんじゃないの?」


表向き名前は確かに元気になっていた


....が、テーブルの下でずっと握られている手
その為に右手が使えない俺は、左手にフォークを持っていた

少し頬が紅くなって来た名前は、手も汗ばんで来ている


「....名前、その辺にしておけ」

「え、せめてこの一缶は終わらせたい」


俺は抜き取った缶を軽く横に振った
....残り3分の1程度か


「....その代わりゆっくり飲め、いいな」

「うん」

「相変わらず過保護ねぇ。面倒臭くない?」

「私の為だって分かってますから。でも確かに時々面倒です....」


その言葉と共に握る力を強めた名前に、青柳がこの場に居ない事を切に願った

俺は代わりにその手を一度離し、その指を一本ずつ深く絡めるように握り直した














2時間程して青柳は、"私と凌吾から"とデジタルフォトフレームを置いて行った


「青柳を下まで送って来る」

「.....うん」


そうは言いながらも俺の手を離そうとしない名前は、今日はやけに甘えて来る


「....すぐ戻る」


俺はその額に唇を寄せ、リビングに名前を残し玄関へ向かった





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