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帰る道中の車内で目を覚ました名前は、指輪を落としてしまった事と、"あんな事"になってしまったのを謝り出した

俺は"怒っていない"と、指輪を名前に返したが、それでも俺を傷付けたと謝り続けた


『名前、俺はお前が一番大切だ。何かあっては困る、もう少し自分を大切にしろ』

『....ごめん』


そう項垂れる名前を見ては、俺も気が弱くなり、あまり強く叱れなかった

確かに自ら身体を差し出したと言う点には問題があるが、実際名前に責められる点はない

全ては名前を突き放したがっている狡噛の身勝手な欲が原因だ



帰宅した俺達はそれぞれ就寝の準備をし、同じ布団に入ったが、寝巻き越しに感じた体温に"抱いて欲しい"と迫られた

俺はそんな名前に、今日はもうゆっくり休めと落ち着かせた
狡噛との件で相当疲弊していたはずだからだ

不服そうに俺に背中を向けた名前を、俺は仕方なく抱き寄せた

そのまましばらくすると小さな寝息が聞こえて来て、俺もようやく安心して眠りに着いた






そして朝に迎えられ目覚めた今、俺はベッドから出ようとしていた


「名前!」

「やだ!」

「そろそろ離せ!遅刻する!」

「休めばいいじゃん!」

「そう簡単に休めるわけないだろ!」

「やだ....行かないで」


俺の背中に抱き付いて離れない名前も、今日は休みではない
背後に感じる体温に、俺は額に手を当てた


「....名前、言う事を聞け」

「じゃなかったら?」

「....俺も男だ」

「....いいよ」

「いいわけないだろ。お前もそろそろ支度をしろ」


緩まった腕の力にホッとしたのも束の間


「っ!名前!」

「伸兄....愛してる」

「待て、


今度は俺の腿の上に体重を乗せた名前は、俺の唇に自らのを重ねた

その柔らかな感触にどうしても高まってしまう熱と、早まる鼓動

....いやダメだ、まだ着替えてもいなければ朝食も取っていない
そんな時間はない


そう思いを巡らせている隙に、首筋に感じた鈍い痛み


「なっ!名前!さすがに位置を

「絆創膏ならあるでしょ?」

「.....」


"その方がよっぽど目立つだろ"という言葉を飲み込み、俺は反対に、誰にも見られない程深い位置に強く吸い付いた

咲き誇った赤い花に、俺はより一層の情を篭らせてしまったのを察し、大きく深呼吸をした


「降りろ名前!これ以上は本当に

「やだ!」


そうきつく俺の首元に抱き付いた名前に、後ろにバランスを崩しかけ、咄嗟に右手を付いて二人分の重さを支えた


「....狡噛はお前を嫌っているわけじゃない、俺がもう一度あいつに話を

「なんで今狡噛さんの話なの」


そんな少し拗ねたような声にすら愛しさが沸き起こる


「私は宜野座名前、宜野座伸元の妻で今その夫を抱き締めてる。そんな時に他の男の人?」

「....悪かった」


俺は限界近い理性でシーツを掴んだ

結婚してからというもの、限度無しに甘えるようになった名前に、俺は元から精神を削られる毎日だった

その中で狡噛の暴走により更にその上限を上げた名前は、俺を極限まで追い込む






「伸兄....」




そう俺の前髪を丁寧に掻き分けた名前の僅かな表情の変化が、酷く俺の心を乱した




「....お母さんに感謝しな、んんっ」





貪り合うように交わる唾液が溢れて流れる





「はぁ....んっ.....」




なかなか起きて来ない飼い主に心配になったのか、部屋の前で止まったダイムの足音



カーテンの隙間から漏れるやや暗い光は、今日は曇天だと示していた





「....手加減は出来ないが、仕事は休むな」

「....頑張る」





































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「あら珍しいわね?宜野座監視官が遅刻なんて、今日は雪でも降るかしら?」

「....すまない、何時だ」

「大丈夫ですよ、まだ3分しか経ってません」


そう息を少し切らせていた宜野座さんは、襟元を立てたコートを着たまま自分のデスクに着いた


「....寒いですか?暖房の温度を上げましょうか?」

「....気にするな。それより君は早く仕事に向かえ」

「は、はい!」


私の仕事....
それは捜査を外された狡噛さんを見張る事

ミーティングを始めた一係オフィスを出て、私は狡噛さんの宿舎へと向かった





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