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まるで狡噛さんが執行官になったばかりの時に戻ったかのようだ

....むしろそれより悪いかもしれない

私と目も合わさない
私と話もしない
私の名前も呼ばない

"他人"どころじゃない避けられ方だった

伸兄は、私は嫌われたわけじゃないって言ってたけど、じゃあ何だと言うのか

私は嫌われてもおかしくない程の事をした
その自覚はある

散々好きだって言っておいて事後報告なんて
私は狡噛さんの優しさに甘え過ぎた

そんな私に狡噛さんも耐え切れなくなって、愛想を尽かしたのかもしれない
なんだったら私を恨み、傷付けることで報復してるのかもしれない


でも私は突き放せなかった
愛していなくても好きな事には変わらないし、もちろん大切な人だ

知り合って、好きになってもう何年も経った
その間本当にいろいろな事があった
無責任かもしれないけど、私はただまたあの時のように....



「っわ!」

「さっきから名前呼んでたんだけど?」

「し、秀君!」


急に背中を叩かれて顔を上げると、常守さんと秀君の姿が


「すみません!縢君も行きたいって連れて来ちゃったんですけど....大丈夫でしたか....?」

「....逆に秀君はいいの....?」


伸兄と結婚した事を知られて以来、秀君はずっと納得が行ってなかったみたいだった
だからてっきりもう....


「あぁその事なんだけどさ....これ」

「え?」


差し出されたのは大きな花束
よく分からないけど反射的にそれを受け取ってみる


「俺と、朱ちゃんと、クニっちと、それからセンセーから。....遅くなったけど結婚おめでとうって事でさ」

「な、なんでまた急に....?」

「.....それは....あれ、だよ....」

「あれ...?」


口籠もりなかなか言わない秀君に、今度は常守さんが口を開いた


「実は縢君、宜野座さんと居る名前さんが本当に幸せそうだって。だから何かしら祝ってあげるべきだって私達に提案してくれたんです」

「....秀君....ありがとう!」

「そ、そんな礼は....」


そう少し気恥ずかしそうにする秀君は新鮮で、嬉しくて私はその花束を潰れない程度にギュッと抱き締めた

すると、花と花の間にカードのようなものが入っている事に気づく


「それは私たちからのちょっとしたお祝いの言葉です。帰ったらぜひ開けて見てください」


私は失くさないように、それを花束から抜き出しカバンに入れた







それぞれに食事を買い、再びテーブルに戻ってきて着席をする

同僚の人以外とこうして食堂で食べるのは久々かもしれない



「名前ちゃん....ごめん」

「もう気にしてないからいいって」

「いやそうじゃなくてさ、コウちゃん....。コウちゃんにもさ、一応聞いたんだけど、"やっぱり俺は祝えない"って」

「そ、そっか....」


一度は"祝いたい"って言ってくれたのに....


「名前さん、私も先日は本当にすみませんでした....」

「え?....あぁ....いえ....」


そんな常守さんのせいじゃないのに....
責任を感じさせちゃったのかな....


「宜野座さんに事前に、狡噛さんと会わせるなって言われていたのに....」


その言葉に、あの"異常"としか言いようのない状況を思い出す
....本当に怖かった


「....コウちゃんと何かあったの?」

「....ごめん、あんまり話したくない、かな」


他人にわざわざ言うことでもないし、言えるような内容でもない

私はグラスの水を飲み込んだ


「でも最近のコウちゃん、冷たいよね?」

「....実はそれで常守さんに相談が....」

「わ、私ですか?」


































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王陵璃華子は行方不明

そして学園内で更に二人の女子生徒の遺体を発見


だが驚くべき収穫もあった

辛うじて復元に成功した音声は、王陵璃華子と"マキシマ先生"と呼ばれた男の会話

....マキシマは存在する

俺はそれに、なんとも言えない高揚感を感じていた



その中で、常守から聞いた話が俺を絡めるように捉えて離さないでいた


....心配しないでいられる訳がない

どれ程濁った
カウンセラーには行ったのか

どう考えても俺の罪だが、完全には悪になりきれない自身に嫌気が刺す


だがそれはギノの領域だ
もう俺にはそんな善を繕う権利も無い


確かに名前には悪い事をした
故意ではあるがあいつを傷付けた

それは、これ以上大きな過ちを犯してしまう前に
あいつから離れる為に


そんな俺の思いを知ってか知らずか、名前は尚も俺を無視しない
だが同時に、愛する夫への深い情も見せつけられる

その残酷な優しさと愛を恨んだ

だからこそ、その憎めない愛しさから逃れようと、俺は何度もマキシマの声を繰り返し再生した





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