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伸元は認めようとしないが、二人とも俺にとっては我が子だ

名前はほとんど伸元が育てたようなものだが、あいつと違って比較的明るい子に成長した

そういう意味で名前はあまり心配しいてなかったが、あいつは俺のせいであんな性格になっちまった

父親と息子だ
あいつにも良い人が見つかる事を陰ながら祈っていた








....それが結果


「いい加減降りろ!仕事に行け!」

「あと10分あるもん」

「名前!」


確かにこれ以上無い"良い人"を見つけた

最初こそまさかと思ったがな....
すぐに息子の変化には気付いたさ

それからは二人の幸福に俺も嬉しくてしょうがない

冴慧が居たら、きっと二人の晴れ姿に待ち切れずに、"私も"と言って名前のドレスを一緒に選んだりしただろうな....



「....なんか、ギノさんと名前ちゃんのイチャイチャって何故か憎めないっすね....」

「微笑ましいのよね」



そう呟いた縢と六合塚含め俺達は皆、伸元とくっ付いて離れようとしない子供のような名前と、口では嫌がるが本気では抵抗しない伸元に一種の癒しを感じていた
....唯一コウは違うみたいだが


勤務時間が違い今日は一緒に来なかったんだろう

どうやら出勤には少し早く来てしまった名前は、ここに来てからずっと伸元の膝の上を占領している

そのまま伸元のパソコンや資料をいじったりなどと、我が一係監視官に頭を抱えさせている

....あの様子じゃわざと早く来たように見えるが


「ギノさんも、マジで名前ちゃんどけようと思えば出来るのにしないし」

「恥ずかしがってはいるわね」

「あいつは名前の事になるとお手上げなんだろうな」

「ギノさんのあの優しさ、ちょっとでいいから分けて欲しいっすよね」

「それは名前さんの特権よ」

「ハハっ、部下と愛する女とじゃ態度が違うのは当た

「雑賀譲二だと!?」


そう突如響いた監視官の声に、俺達は"何事だ"と静かになった

見ると、膝に乗る名前の背後から肩越しにパソコンの画面を凝視する伸元

それでも前屈みになった自身から落ちないように、指輪が光る左手で名前を抱えている配慮があいつらしい




「あの馬鹿!何を考えている!」

「だ、誰なの?この雑賀譲二って」

「生徒の犯罪係数を上昇させた心理学の元教授だ」

「....そんな....狡噛さんが、常守さんをその人に会わせたって事.....?」







それから少しして"そろそろ行かないと"と、名前は一係オフィスを出て行った

残された伸元は、全員が一瞬で察せる程苛立っていて、俺達は刺激しないように黙って仕事をした


柴田幸盛や、未だ見つからない王陵璃華子についてそれぞれで洗い直していた最中、



その時は来た




オフィスの扉が開かれたのと同時に、伸元は立ち上がり、入って来て人物の前に立ち塞がった





「常守監視官を雑賀譲二に引き合わせたそうだな」

「あぁ」


俺達執行官3人は"我関せず"と言ったように、背中でその空気を感じた


「それは私が紹介を頼んで

「どういうつもりだ。彼女を巻き添えにしたいのか、....貴様と同じ、道を踏み外した潜在犯に」


....はぁ、相当怒れてる様子だなこりゃ


「っ、ちょっと待ってください!私を子供扱いしてるんですか?」

「事実として君は子供だ!右も左も分かっていないガキだ!」


同じ"子供"でも、随分違った態度だな
名前にはここまで強く当たった事は無いだろう

六合塚が言った、"伸元の優しさは名前の特権"ってのは、全く持ってその通りだな


「何の為に監視官と執行官の区分けがあると思う。健常な人間が、犯罪捜査でサイコパスを曇らせるリスクを回避する為だ!二度と社会に復帰できない潜在犯を身代わりに立てているからこそ、君は自分の心を守りながら職務を遂行出来るんだ!」

「そんなのチームワークじゃありません!犯罪を解決するのと、自分の心を守るのと、一体どっちが大切なんですか!?」

「君はキャリアを棒に振りたいのか?ここまで積み上げて来た物を全て犠牲にするつもりか!」

「....私は....私は確かに新人です!宜野座監視官は尊敬すべき先輩です!しかし、階級上は全くの同格という事を忘れないで下さい!」


そう言葉を強くした新人監視官に、俺はやっぱり息子に同情してしまう


「自分の色相はちゃんと管理できています!いくら先輩とは言え、職場で、執行官達の目の前で、私の能力に疑問符を付けるような発言は謹んでいただきたい!」


それに何も言い返さず、静かに出て行った息子の背中をさする権利は俺には無い


「....あんな言い方....」


同じようにオフィスを出て行ったお嬢ちゃんに、俺も立ち上がった






「どこに行くんだい?」

「局長を通して抗議します!」

「やめておいてくれないかなぁ、お嬢ちゃん」

「....でも!」


俺は憤る常守監視官に、休憩室に来るよう誘った

俺が息子にしてやれるのもこれくらいだ





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