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街中は浮かれている

はしゃぐ子供を見守る両親や、仲良く手を繋ぐ若いカップル

今日は12月24日土曜日、クリスマスイブ

まだ比較的朝早い時間でもショッピングモールは人で溢れている

そんな中私は一人マフラーを外してそれを左腕に掛けた


ここに来たのは、パンと苺のショートケーキを作る材料を買う為
食材のみならず、デコレーションに使う物や梱包する箱も




苺のパックに手を伸ばそうとした時、脳内に響いた声に思わず動きを止めた


"お前をもう愛してはいない、好きでもない"

"俺はお前に裏切られた。顔も見たくない"

"名前、俺はお前が嫌いだ"


....あまりにも真っ直ぐで酷な言葉
衝撃を受けないはずが無かった

伸兄は"あいつの言葉を間に受けるな"って言ったけど、無視出来るはずもない

でも全ては私のせい
だからこそ責任を取ってちゃんと接したい

そんな思いで私は再び苺を手に取った

例え受け取ってくれなくても....


....そういえばあの時なんでドミネーターを向けられたんだろう?
あとで自分でチェックしたけど異常は無かった
常守さんに騙されたって言ってたけど....どういう意味?



レジで会計を済ませて、早く帰って作ろうかと思った足を止める

....そうだ、ダイムにも

私は今買ったばかりの重い荷物を抱えながらペットショップに向かった

ダイムだって家族だし、たまにはご褒美をあげなきゃね



「何かお手伝いしましょうか?」

「あ、はい、どのサイズを買えばいいのか分からなくて....」

「犬種は何ですか?」

「ハスキーです、シベリアンハスキー」




実は昔はロンって名前の犬もいた
....もう亡くなっちゃったけど

ダイムがお婆ちゃんに連れられて初めて来た時は、伸兄に名前を決めていいと言われた

でも3日経ってもなかなかいい案が浮かばなくて
ロンだったから"ハリー"とか
色がそれっぽいから"小麦"とか

結局伸兄が趣味にしているコイン集めから"ダイム"って私も気に入ったからそうなった




「じゃあこれください」































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「悪戯の可能性は?」

「からかわれるのはしょっちゅうですけど、こんな悪質な事をする子じゃありません」


本来非番だったはずの今日、常守が"友達から不審なメールが来たから一緒に来て欲しい"と俺を連れ出した

そのメールに指定された場所に向かっている最中だ


「....まぁ、行って確かめるのが一番だろうな」

「すみません....非番なのに」

「いいさ」

「公私混同ですか?これって」

「ギノに見つからなきゃ大丈夫さ」





そんなギノはあの後、俺のドミネーターを取り上げた


『貴様いい加減にしろ!どこまで名前を苦しめれば気が済むんだ!』

『それをそっくりそのままあいつに返したいな』

『....いつまでその情を抱えているつもりだ!名前はお前を大切にしようとしている、何故その気持ちを汲んでやらない!』

『お前らは二人揃いも揃って優し過ぎるんだよ。それが人を追い込む事もあると学べ』


現実、まだ俺に構ってくれる名前に嬉しくないはずがなかった
自ら断ったが、ケーキを作ってくれるなんて喜ばしいに決まっている

だがもう、俺にはその気遣いを受け入れられる余裕は無い

....俺だって諦めたいんだ







「ナビによるとここ....なんですけど....」


車が止まったのはやけに荒んだ街で人気も無い


「あんたの友達は普段からこんな場所をうろつくタイプなのか?」

「いえそんな....ちょっと変ですよね」

「明らかに変だろ、間違いなく罠だ。....あんた狙われてるぞ」

「私が?誰に?」

「恨みを買うような覚えは?」

「あるわけないじゃないですか」

「はぁ....やっぱり刑事の自覚無いんじゃないか?」


刑事なんて半分は恨みを買うのが主みたいな者だ
人の意思関係無く、シビュラが悪と判断した人を狩るんだからな


「ともかく、俺が様子を見て来る。そこで待ってろ」

「でも本当に罠なら危険です」

「だからだよ、二人揃ってやられたら誰が助けを呼ぶ?」

「すぐに応援を呼ぶべきじゃないんですか?」

「あんたが必要と判断したらそうしろ。あと武装の許可を頼む」


監視官権限で認可されたスタンバトンを受け取り、ナビゲーションは常守に任せて俺は地下に入っていった





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