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「んー!良い匂い!どう?」
私はオーブンから取り出したクロワッサンを、プレートごとダイムに近付けた
鼻を近づけて匂いは嗅ぐけど食べようとはしないのがお利口だ
そんなダイムは私が買ったサンタクロースを模した赤い服を着ている
それがまた可愛い
プレートをキッチンの台の上に置いて、5つ作った中から一つ取って味見をする
....うん!結構よく出来たと思う!
外で買うものと比べたらまだまだだけど、全然悪くないと思う
今回はさすがにレシピに従ったしね
目の前にはペーパーボックスに入った苺のホールケーキ
時間を確認すると間も無く19時
でも伸兄はまだ帰って来ない
今から行こうかな?
私はテレビ前のテーブルに置いたデバイスを手に取り通話をかけた
....出ない?
忙しいのかな?もしかして現場に出てる?
そう思って諦めて、またデバイスをテーブルに戻した
....でもせっかくこの日なんだから、オフィスで待ってるのが一番早く会える方法だろうと、私は自室に行きスーツに着替えた
別に私服でも良かったのかもしれないけど、職場に行くのに私服はやっぱり抵抗があった
リビングに戻ってクロワッサンを袋に詰めて、ケーキが入った箱を持つ
....オフィスに食器類は無いよね?
使い捨て出来るナイフやフォーク、お皿をまた別の袋に押し込んだ
「ダイム、ちょっとお留守番しててね」
私はエレベーターで地上に降り、あまり歩き回りたく無いという理由でタクシーを捕まえた
「公安局ビルまでお願いします」
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....クソっ
一体何がどうなっている
位置情報をロストした狡噛と、常守から来た応援要請
そんな事をする奴では無いと分かっているが、逃亡を図った狡噛に常守が騙されたと考えた
その後も、あの時名前に、
"強く言っちゃダメ、常守さんも新人だし女の子なんだから先輩として優しくしてあげないと"
と言われたが、結局俺には出来なかった
そんな中"コード108が進行中"と狡噛から通信が入り、ありったけのドローンを連れて援護に向かったが、たどり着いた巨大な地下空間は異様な空気を醸していた
重傷を負った狡噛と、狡噛に執行された帝都ネットワーク建設の会長、泉宮寺豊久
そして槙島と対峙し、目の前で友人を殺され"槙島はドミネーターで捌けなかった"と言った常守
....どういう事なんだ
俺達は皆混乱していた
狡噛は治療の為救護班に護送され、公安局に戻る車を運転する俺の隣には未だショックと悲しみを隠せない常守
それに対し何の行動も取れない俺だが、15分程前に名前から不在着信があった事に気付く
急いでかけ直したが出ない
もう一度かけても....出ない
そのまま5回ほど試したが一向にその声が聞こえることは無かった
まさか何かあったのかと急激に不安になり俺はアクセルを踏み込みスピードを上げた
「降りろ」
公安局ビルの地下駐車場に車を止め、そう項垂れる助手席の人物に言い残して、俺は足早にエレベーターに乗り込んだ
41Fのボタンを押し、オフィスに戻り次第急いで退勤する準備をしようと俺は焦っていた
自宅のホームセクレタリーからは何の通知も無い
だがデバイスを取らない
出掛けると言っていたがその先で何か事件に巻き込まれたか?
一度だけあった着信はまさか助けでも求めていたのか?
もしも、もしもあいつの身に何かあったなら俺はどうすればいい
このまま一生何故あの着信を取ってやれなかったのかと、自分を責める事になる
たった15分のすれ違い....それが....
そんな恐怖にも似た不安を込めて、俺は開かれたエレベーターの扉から駆け出した
すると一係オフィスの明かりが付いている事に気付く
まさか消し忘れたか?
....いやそんなはずは無い、俺が確かに確認したはずだ
なら誰か来ているのかと、歩みを進め...
「あ、伸兄お帰り!」
その明るい声と笑顔に俺は唖然とした
抱き付かれた衝撃にも、理解するのに時間がかかった
「やっぱり現場に行ってた?」
「....何度も通話をかけたんだぞ!何故出なかった!」
そう押し潰されそうになっていた精神から解放され、俺は強引に言葉を強めてしまった
「え?あ....ごめん....デバイス家に忘れてきちゃって....お、怒んないで、ほらクロワッサン焼いたの持ってき
「どれ程....俺がどれ程心配したと思ってるんだ!」
全く生きた心地がしなかった
先程まであった槙島の事件など忘れてしまうくらいには動揺していた
スーツがシワになろうが関係ない
今は全てがどうでも良い
その無事を隅々まで確かめるように強く強く抱き締めた