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「え?公開捜査が出来ないんですか?」
「あぁ、局長命令だ」
「そんな!元々手掛かりが少ないのに非公開じゃ捜査が難航してしまいます!」
「分かっている!....上からの命令だ、従うように」
局長執務室から戻って来た宜野座さんは、やけに顔色が悪かった
元より色白な顔を真っ青にして何度も溜息をつく
「....何かあったんですか?」
「....少し休憩を取って来る」
そう言ってオフィスを出て行ってしまった宜野座さんに、私は征陸さんと顔を見合わせた
「....あれはまずいなぁ、相当やられてる様子だな」
「局長に叱責でもされたんでしょうか....私が槙島を取り逃したせいで....」
「....いや、お嬢ちゃん、.....あいつの言う事に従ってやってくれないか?」
「局長命令ですから、もちろんそのつもりです。仕方ありません」
「今回の件....何か嫌な匂いがするな....お嬢ちゃんも気を付けな、明日は我が身だぞ」
「心配してくれてありがとうございます。でも落ち込んでなんていられませんから」
私は作業していた書類を済ませ、席を立ち上がった
「狡噛さんの様子を見て来ますね」
「体調はどうですか?」
「そろそろ退院したいな。まさか病室で年を越す事になるとは思ってなかった」
そう言う狡噛さんは、読んでいた本を閉じ私に顔を向けた
「捜査の方はどうだ、何か分かったか?」
「....いえ、つい先程宜野座さんが局長と話をしたみたいです。"専門のチームが調査をするから、その結果が出るまでは"だそうです」
「は?何でだ、情報を公開した方が効率的だろ」
「私にも分かりません、局長命令みたいで....」
「はぁ....なるほど、上に言われたんじゃどうしようも出来ないってわけか」
調査の結果なんていつまで待てばいいんだろう
今の所、槙島の顔を見たのも私だけなのに
私は側にある簡易椅子に腰を下ろした
「名前さんへのお礼は決まりましたか?」
「....あんたの提案だろ、勝手に決めてくれ」
「ダメですよ、ちゃんとご自身で考えて下さい。そろそろ年末年始の休みも終わりです。一般課の職員も勤務が始まりますよ」
あの後、狡噛さんは罰が悪そうにしながらもケーキを食べた事を認めた
でもきっと名前さんにそれを伝えるつもりが無いんだろうと思って、お礼として何か贈り物をする事を提案した
「....俺は渡すとは一言も言ってないぞ。ケーキもあいつが勝手にくれた物だ」
「本当素直じゃないですね。どうするかは狡噛さんの自由ですけど、後悔先に立たずですよ」
「....はぁ....あんたはもう大丈夫なのか?」
「はい、落ち込んでてもしょうがないですから」
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「ダイムー、仕事行きたくないよー」
連休が続き、寒いし面倒だしで私はずっと家にダイムと引き籠もっていた
出掛けるとしてもダイムの散歩くらい
そんな休みも明日が最後
とは言っても、夜勤じゃなければ伸兄の出勤時には叩き起こされるし、夜も一緒に寝るしでそこまで怠けた生活にはなっていない
今はシャワーも浴びて、夕飯も食べ終わり、ただソファでダイムを抱きながらテレビを見る
....あれからまだ刑事課には行ってない
つまり狡噛さんにも会ってない
ケーキがどうなったのかは気になるけど、伸兄伝いでの伝言も無い
....やっぱり捨てられちゃったかな....
そう思っては"期待なんてしてない"と自分に言い聞かせる
そのまましばらくバラエティを見ていると、デバイスの着信音が響き渡り、私はテレビの画面から目を離さずにそれを手にした
「なに?」
『今日は遅くなる、俺を待たずに早く寝ろ』
「え?なんで?残業?」
『....そんなところだ』
「いいよ、何時くらいまでかかりそう?」
『分からない、とにかく待つな』
その慣れ親しんだ声に私はどこか違和感を感じていた
...何かが変だ
「....ねぇ...泣いてる...?」
そう聞いてしまわなきゃいけないほど僅かな異変ではあった
でも20年以上も一緒に過ごして来た私には....
『.....名前、無事か』
「....え?無事、だけど....どうしたの?」
『....ならいい、早く休め。夜更かしはするな』
「ちょっと待って、何が
一方的に切られてしまった通話に何故か手が震える
「何が....あったの....?」
そう私は続けようとしていた言葉を、テレビの音が聞こえる部屋で呟いた
伸兄が泣くなんてよっぽどの事でも無い限りは....
前に常守さんと何かあった時もかなり弱ってはいたけど、泣いてはなかった
心配に押し潰されそうな心に、私はテレビなんて見てられなくて、いっそ眠ってしまえば次目を覚ました時隣に帰って来てくれるだろうと寝室で布団に潜った
でも結果何か大変な事があったんじゃないかと眠れなくて、通話をかけてみても取ってくれなくて
その代わりにただ
"何時だと思っている、早く寝ろ"
とメッセージが来ただけだった
そのまま気付いたら連休最終日の太陽が昇っていて、"遅くなる"と言った伸兄は一晩しても帰って来なかった