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「あ、コウちゃんおはよ!」

「あぁ、昨日は気を遣わせてすまなかったな」

「いいんっすよ!俺がしたくてやった事っすから!で?」

「....で?」

「....いやいや、まさかコウちゃん何もしなかったんすか!?」

「....何故それをお前に教える必要がある」

「うわ、人がせっかくチャンス作ってあげたのにそれは無いっしょ」



昨日は名前ちゃんを戻してくれたギノさんにびっくりしたけど、目の前でいい雰囲気を醸し出す二人に耐えられなくなってパーティーはお開きにしてあげた

コウちゃんが飲み物や食べ物を取ってあげたりする度に、幸せそうにする名前ちゃん

見てるこっちまでその幸せオーラが移りそうだ



「お前に教えてもいいような夜だったら、わざわざ部屋に帰ってないだろ」

「....おぉ!いいねぇ!熱々だねぇ!でも1時間くらいしか無かったっしょ?間に合ったんすか?」

「.....あいつは早朝に帰って行った」

「.....ちょっ、マジっすか.....余計ギノさん怒らせてどうするんすか!はぁ...今日は“ガミガミメガネデー”かよ...」


ガミガミメガネデーとは、ギノさんの機嫌が悪く終始怒号が飛び交う日
そんな時は大人しくしてるのが一番だ
始末書なんか書かされることになったら最悪だ



「....っ、げ....」



早速ガラスの向こうの廊下に見えた姿は、俺が知る過去最高レベルでヤバそうだった

まぁせめて、その裏では名前ちゃんがハッピーなんだったら、俺達一係はギノさんのお怒りくらいどうって事ない

それくらい一係はコウちゃんと名前ちゃんを応援してるって事

いくら名前ちゃんがギノさんを信頼して大切にしていようが、そこに恋愛感情は無いわけだし、所詮は家族愛だ

皆いずれは家族の元を旅立ち、それを残された家族も乗り越えなきゃ行けない







「っ!」

「えっ!ちょっとギノさん!?」



オフィスに入って来るなりすごい形相でコウちゃんの襟を掴み上げた監視官は、普段声は荒げても手は上げない



「狡噛貴様!何をしたのか分かってるのか!」

「落ち着いてよギノさん!」

「お前は黙っていろ!それが出来なければ出て行け!」


俺は仕方なく、椅子に座り直した


「名前が一晩過ごすのを了承したのはお前だ、ギノ。そんなに嫌だったんなら連れ戻せば良かっただろ」

「え?ギノさん名前ちゃんがコウちゃんの部屋に泊まるのオッケーした

「出て行け縢」

「....はいはい、黙りますよ」



それにしても驚きだ

パーティーに門限付きとは言え名前ちゃんを戻しただけで信じられなかったのに



「俺が本当に、あのメッセージはお前が送ったものだと気付かないと思ったか!」

「なら尚更だろ、何故許可したんだ。お前が自分で許可した以上俺に文句を言う筋合いは無いだろ」

「それは好き合ってる者同士が抱き合ったらサイコパスが悪化する証明を持って来てから言え!」



....え?



「....どういう事だ」

「名前ちゃん悪化したんすか....?」

「....昨日俺とカウンセラーに行った時点では74だった」

「74!?ヤバイじゃないっすか!ギノさんはメンタルケアは徹底してるじゃないっすか!」

「....おい、何やってんだギノ!監視官であるお前が名前を

「黙れ!ふざけるな!俺が本当にあいつをお前らのくだらんパーティーに戻らせたかったと思うのか!俺が本当にあいつがお前と一晩過ごすのを望んだと思うのか!」

「.....ぎ、ギノさんもしかして....」

「名前がパーティーを楽しむなら、好きで堪らない狡噛と一緒に居たいなら、それが母さんを亡くしショックを受けているあいつの心を癒すのならと思った決断だ!」

「.....」



その言葉にコウちゃんも驚きを隠せないみたいだった

ギノさんの手を振り払おうともしない




「それがどうだ、今朝名前は犯罪係数を上げて帰って来た。教えろ狡噛!お前はあいつを潜在犯にしたいのか!?それとも、ただ間違った決断を下した俺の責任か!」

「....名前は、ずっと俺が好きだと、大好きなんだと言ってくれていた。....ただそれだけだ」

「それで係数が上がる理由を聞いているんだ!」

「ギノ、前にあいつがお前に連絡して帰った時があっただろ」

「....あぁ、それがどうした」

「その時の名前はどうだった」

「....特に変化は無かったが、だからなんだ。今の話と何の関係がある」

「.....コウちゃん?」



そこで急に俯き始めるコウちゃんと、話の内容が全く分からない俺

....まさかやっぱり潜在犯と居ると、影響されるのか?
でも今コウちゃんが話題に出した話だと、名前ちゃんは無事だったみたいだし....



「.....ギノ、もう一つ聞いていいか」

「今は俺が質問している!」

「ギノが答えてくれたら俺も答えよう」

「.....なんだ」

「もし名前が全てを失い絶望にふけ自害しようとしていたら、お前ならどうする」

「なんの話だそれは」

「いいから答えてくれ。お前なら正解を知っていそうな気がするんだ」



そんなの止めるに決まってるじゃん、と俺は思ったけど、次のギノさんの回答に俺もコウちゃんも度肝を抜かれた



「そんな事象は有り得ない。俺に聞いている時点で、あいつは全てを失っていない。それは逆も然りだ」

「.....ハハ、笑えるな」

「何がおかしい、それ程俺達は互いが重要な存在だ」

「いや、あいつを信じてやれていないのは俺の方だなと思っただけだ」

「ちょっと待って!コウちゃんどういう意味?」

「俺は“止める”と答えた。つまり俺が側に居ておきながらも、名前が質問文の通りになり得ると肯定してしまったんだ」

「....結局なんの話だ。あいつがお前にそんな事を聞いたのか」

「あぁ。本当はもう一問、“どうしても聞かず、やはり自害しようとしたらどうするか”。今なら正解が分かる気がするな。それなら一緒に、だろ?ギノ」

「....それ以外何がある」

「それだけは思い付かないのがお前と名前以外の人間だ。全く理解し難いな」




意味わかんねーよ
何が何でも止めるだろ普通

名前ちゃんって意外と変人?




「.....それで、俺は答えた。約束は守れ」

「そうだな、お前が名前を連れて帰った日。あいつのメンタルに変化が無かった日。あの日はお前も不思議に思ってたんじゃないか?」

「あぁ、だから次の日お前に聞いたんだろ。何があったと」

「名前はお前に黙っとくと言ったんだがな。それでもシビュラはあいつの精神に変化を見出さなかった。.....ギノ、これに関しては殴ってくれてもいい」





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