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はぁ....課長に注意されてしまった

仕事の効率が下がっている

消化し切れていない悩みだらけで、とてもじゃないけど仕事に身が入らない



なんとかこうして退勤時間を迎えたものの、私の色相は依然として暗い色なまま



狡噛さんに会いたい
優しくして欲しい

それが色相改善に繋がるかどうか分からないけど、嬉しい事に変わりはないと私は例に倣って41Fに着いた





「お疲れ様で....っ!狡噛さん!」




その唇横には見慣れない絆創膏



「ど、どうしたんですか!その怪我!」

「大した事じゃない、少し唇を切っただけだ」

「仕事で犯人とやり合ったんですか?」

「いや

「ギノさんっすよ」

「....え?」

「おい縢、なっ待て名前!」



私はすぐにその奥の席に座る人物のデスクを叩いた



「どうだ、メンタルケアの方法を見出せたか」

「殴ったの!?」



ゆっくり私を見上げた伸兄の目は私と同じく怒っていた



「あぁ」



それなのに言葉にトゲは無い



「どうして!私の犯罪係数が悪化したのは狡噛さんのせいだと思ってるの!?」

「名前、やめろ」

「狡噛さんは黙ってて下さい!これは私と伸兄の問題です!」


“うわ、名前ちゃん怒るとギノさんそっくり”と聞こえて来た秀君の声に相手出来るほど私は落ち着いて無かった



「犯罪係数上がって頭おかしくなっちゃった!?」

「殴れと言ったのは狡噛だ」

「じゃあ私も殴ってって言ったら、殴ってくれるの!?やっていい事と悪い事くらい判断つくでしょ!それでもエリート監視官なの!?」

「そういうお前も叩いたんだろ」

「.....え、なんで.....」


なんで伸兄がそれを知ってるの


「....無理矢理言わせたの!?私聞かないでってあの時言ったよね!?」

「違う」

「殴ってまで吐かせたってことでしょ!それで私の色相が濁るとか考えなかったの!?」

「....狡噛、縢、ドミネーターを持っているな」

「....まさかギノさん....!」

「監視官権限で記録は後で消す。それぞれ俺と名前に向けろ」

「....いいのか、ギノ」

「早くやれ」



そう私から1ミリも目を逸らさず指示を出した伸兄だって、もしかしたら私が今こうして責めたせいでさらに犯罪係数が上がってるかもしれないと思うと、途端に怖くなった


横目に見える私達に向けられた2つの銃口



「名前ちゃん77...」

「ギノお前!」

「いいから数字を言え」

「.....52だ」



....変わってない



「....なんで....なんで変わってないの....」

「それはお前自身が最も良く分かっているはずだ」

「だって、私こんなに....」

「名前、」

「えっ、ちょっと!」



引き寄せられた引力に負けて、そのスーツに包み込まれると、どっと力が抜けていく感覚に体が麻痺していくような気がした



「そうだ、これは俺達二人の問題だ」



そう通知音が鳴ったデバイスを確認してから、秀君達には聞こえないように耳元で囁かれた声



「....っ、離して!狡噛さんがどう言おうと、私は許してないから!暴力なんて言語道断だよ!」

「何故お前は良くて、俺はダメなんだ」

「わ、私は当事者なの!次また狡噛さんに手を出したら私が伸兄を叩くから!」

「無理だ」

「...は?」

「お前には出来ない」

「出来るよ!何言ってんの!?」

「それは相手が狡噛だから出来た事だ。そしてそれは俺も同じだ」

「.....」



私は緩んだ腕の力にすぐに身を引き剥がした

なんとなく言いたい事が分かってしまうのが酷だった




「.....いつ仕事終わる?」

「お前が望むなら今終わらせてもいい」

「え!ギノさん!それは困

「じゃあそうして」






























































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「.....マジかよ....」


そう二人が帰っていったオフィスに響いたのは縢の声だった


「....なんでだよ.....」

「....ギノは分かっていたのか....」

「....コウちゃんの方は?」

「....同じだ」

「名前ちゃんは気付いてないっすよね....」

「それがせめてもの救いだな」

「どうすんすか、これから」

「余計燃えるな」

「うわ、鬼かよ」

「なんだ、諦めて欲しいのか?」

「そんなわけないじゃないっすか、絶対負けないでくださいよ」





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