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金曜夜の今、週末に向けて全職員が意気揚々としている

新宿某所のホテルにある巨大ホールを貸し切って行われている、公安局合同新年会

主催である総務課が企画した今年初の試みで、以前は各個々人で好きにやっていた

....公安局合同新年会とは言うものの一般課のみで、刑事課は招待こそされているけど仕事の都合上自由参加

実は新年会の知らせが私の耳に届いたのはつい数日前で、あのドッグランに行った日の翌日だ

伸兄に来れるかと聞くと、当日まで分からないとの事


そんな伸兄は、あれからそこまで落ち込んでいるようには見えなくなって私もホッとした
結局何があったのかは分からなかったけど、伸兄が言わないのならそれなりの理由があるという事だと思って、私も深くは追求しない事にした


そして狡噛さんはと言うと、私が刑事課に行っても背を向けたまま
ケーキはどうだったかと聞きたい気持ちはあったけど、ここまで避けられると私もその背中に話しかけるのすら怖くなって来てしまった

いつ見てもパソコンやデスクの上の大量の資料に釘付けで、それだけで例の"槙島"はやっぱり標本事件の"マキシマ"なのだろうと勘付いた

....3年も追い続けたんだから、夢中になるのは当たり前

その姿に私は少し寂しさを感じていた
どんどん私の知らない狡噛さんになっていっているようで....
変わらないでいて欲しかったのに、それは私のせいなのか、槙島のせいなのか



女性職員はパーティードレス、男性職員はいつも通りのスーツ姿

そんな中で、手にしたメディカルシャンパンが入ったグラスを見つめる

....もう諦めるべきなのかな....
狡噛さんが常守さんを好きになったのかどうかは置いといたとしても、狡噛さんははっきりと私を嫌いだと言った

確かに悲しいし辛い
でも無理に自分を傷付けるのも....
きっとそれが伸兄のサイコパス悪化の一端を担っていたんだと思う





「名字さん、お久しぶりですね」


聞き覚えのある声で旧姓を呼ばれて、咄嗟に顔を上げる


「あ、相馬君!久しぶりだね?」

「同じ局内でも勤務課が違うとやっぱり会わないですからね....人事課は最近どうですか?」

「もうすぐ年度末だからね、所謂繁忙期かな。総務課はいつでも忙しいでしょ」

「ははっ、慣れました」


そうくしゃっと笑った相馬君とグラスを軽くぶつけ合う
メディカルとは言え飲み過ぎないようにしないと


「そう言えばさ、人事課合わなかったの?結構早くに異動したよね?」

「....刑事課の特別扱いって結構甚だしいですよね」


....なんで刑事課?


「まぁそうだね。公安局は刑事課ありきだから」

「....僕達ももう27、時って早いなと最近改めて感じるようになりました。年なんですかね?」

「私もそう思う。7年あっという間だったな....」


振り返りきれないほどたくさんの事があって、学生服を着てたのがつい最近に思えるのに、もう30近い
そろそろ"おばさん"って呼ばれたりするのかな


「名字さんはその....シビュラの適性を受けたりしてパートナーを見つけましたか?」


その質問に何故か恥ずかしくなって、思わず左手を逆の手で覆うように隠した


「シビュラ判定は受けてないんだけどね、でも最近結婚したよ。相馬君は?彼女とかいるの?」

「.....」

「....相馬君?」

「...あ、す、すみません!結婚したんですか!おめでとうございます!」

「ありがとう」


やっぱりこうして祝ってくれるのは素直に嬉しくて、自然と笑顔になる

そんな私に反して少し俯く相馬君は、まだ良い人を見つけられてないのかな...


「大丈夫、焦っちゃダメだよ」

「....僕は好きになる相手を間違えたんです」

「え?好きな人がいるの?」

「....結婚して何さんになったんですか?」

「宜野座、だけど全然旧姓で呼んでくれていいよ。私もまだあまり慣れてな

「えっもしかして刑事課一係の宜野座監視官ですか!?」

「....そ、そうだけど...?」

「名前ちゃん」




こんなに声をかけてもらえるなんて私は有名人かな、なんて思いながら突然背後からした声に振り返ると



「...あ、青柳さん!仕事終わったんですか?」

「本当は帰ろうかなと思ったんだけどね、タダでお酒飲めるしって思って来て見たのよ。あと、もう遅いけど愛しの旦那様がお怒りよ」

「....っ!」


その言葉に慌ててデバイスをチェックすると不在着信が数件
こんな広いパーティー会場では着信音なんて全然聞こえない


急いで通話ボタンを押してかけ直したのと同時に、




「えっ...?」



指を抜けて行ったシャンパンのグラス



「アルコールは禁止だと言ったはずだ」

「ご、ごめん....」


社交辞令くらいの量ならいいかなと思ったんだけど





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