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....ん?
見た事無...くは無い天井
「....あ、すみません!起こしちゃいましたか?」
ゆっくり体を起こすと、見えたのはスーツ姿の常守さん
....そっか、執行官宿舎だ
いつ寝ちゃって、いつここに来たのか全く覚えてない
「宜野座さんが、そろそろ起きるはずだと....」
「....その通りです、自然に目が覚めただけなので常守さんのせいじゃありません」
最低限の家具しか無いこの部屋は、本当に"空き部屋"なんだと理解する
「着替え、ここに置いておきますね」
"全部新品なので、気にしないで下さい"と言いながらクローゼットの中に綺麗に畳まれた衣服を置く常守さん
足元に少し重みを感じると思い目を向けると、茶色いフサフサとした毛が横になっている
「宜野座さんには洗濯して返すと言われたんですけど、やっぱり他人が一度履いた物は名前さんも嫌かなと思いまして....」
「....もしかしてわざわざ買ったんですか?」
「いえ、自宅にあるまだ着た事が無い物を持って来ました。この子名前は何ですか?」
「ダイムです、伸兄の趣味がコイン収集なので」
「....あぁ!だからアバターもコインだったんですね!」
「アバター...?」
「コミュフィールドのアバターです。前に事件の捜査で使ったんです」
「そ、そうですか」
常守さんに頭を撫でられて、ダイムは嬉しそうに尻尾を振った
普段家には滅多にお客さんも来ないからね
ダイムにとっては場所も人も新鮮なのかもしれない
「私は仕事に戻りますけど、もし何か必要な物があれば遠慮しないで言って下さい」
「ありがとうございます、....すみません、迷惑かけて....」
「そんな事無いですよ!困ってる人を助けるのも私達の役目ですから」
"じゃあ自由にして下さいね"と部屋を出て行った常守さんに、同じ間取りと言えど知らない部屋で一人になる
布団を出て地面に足をつける
リビングに出ると、ソファの上に狡噛さんのコートを見つけた
....そうだ私....
そう頭が痛くなるような記憶をこれ以上見たく無くて思わず目を背けた
....狡噛さんに返さないと
一係オフィスに行く?
伸兄に頼んで返してもらう?
そんな事を考えながら冷蔵庫を開けると、ペットボトルに入った水が数本
その中から一つ取り、キャップを開けて口を付ける
「....あ」
私のデバイス
充電されている状態で、そのコードを引き抜き画面をつけた
するとメッセージが1件入っていて、当然のように送信元は伸兄だった
"部屋にある物は自由に使っていい。
食事は食堂に行くなり好きにしろ。
ダイムの世話は気にしなくていい、仕事が終わったら俺がする。
常守が2日分程の着替えをクローゼットに置いたはずだ。
局の外には出るな。
部屋のパスコードは年を含めたお前の誕生日にしてある。
18時には退勤する予定だが遅くなる場合は連絡する"
そんな箇条書きのような簡素な文章が伸兄らしい
私は飲みかけのペットボトルを寝室に持って行き、ベッド脇のテーブルに置いた
さっきまで常守さんが開けていたクローゼットを開くと、確かに下着やTシャツ等が置いてあって、私はそこから1セット分取り出して浴室に向かった
ちゃんとバスタオルや、シャンプーとボディソープ、化粧水とかもあってまるでホテルみたいだ
パジャマを脱ぎ捨てて中に入る
お湯を出してそれを頭からかぶると、シャンプーボトルの裏に何か書いてある事に気付く
「....私のお気に入りの香りよ。気に入ってくれると嬉しいわ....?」
....唐之杜さん?
それとも青柳さん?
....いや青柳さんじゃない
だって"あの時"伸兄からした匂いじゃない
実際手に出してみると、家で使ってる物より甘めの匂いで改めてボトルを見ると"ホワイトローズ"の文字
家のはずっと柑橘系だし、自分からこんな香りがするのが想像付かない
....伸兄もこれ使うのかな
シャワーを終えて洗面台の前で体を拭く
すると化粧水の裏にもメッセージを見つけた
"これが私のキレイの秘密よ"
....今まであまり気にしてこなかったけど、私もこういうの買ってみようかな
常守さんがくれた着替えは、背格好が似ているだけあって基本的に全部ちょうどいいサイズだった
でも
....ブラジャーが少しきついのは言わないでおこう
引き出しの中に入っていたドライヤーを取り出して、その熱風を自らの髪に吹き付ける
舞うように顔にかかる髪の毛から、使ったシャンプーの匂いが鼻に届く
急に自分が大人っぽくなったような
....うん、唐之杜さんだ
ちゃんとお礼を言わなきゃ
「じゃあダイム、ご飯食べてくるね」