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「ここで何するの?」
「昨日約束しただろ」
その言葉にハッとして私は光を放つパソコンに体を向けた
腹部に巻き付く腕
背中に感じる鼓動
肩に乗せられた顎の重み
それら全てに感じる愛しさの中、私は立ち上げたブラウザの検索欄に"白い花"と打ち込んだ
「伸兄は?何がいいと思う?」
そう聞くと私を抱き締めていた腕を解き、そのまま背後から画像検索に"アザレア 白"と打ち込んだ
検索されて出て来たのは、綺麗なツツジのような白い花
さすが庭園デザイナー1級に合格しているだけある....のか、それとも単純に私の好みを理解し尽くした上での選択なのか
どちらにしろ私は一瞬でその花を気に入った
「でもなんで?ツツジじゃダメなの?」
「花言葉を調べてみろ」
「アザ...レアの?」
「白いアザレアのだ」
私は言われた通りに、"アザレア 白 花言葉"と検索した
「同じ花でも色で花言葉違うの?」
「あぁ、その花全般の花言葉と色別のものがある」
検索結果で出た一番最初のページを開いて、私は"白い"アザレアについて書かれている部分までスクロールをして行った
全般の花言葉に
『禁制』『禁酒』
とあるのが目に入って益々意味が分からなくなっていると、赤やピンクに次いで現れた白の欄で私は手を止めた
「....っ!ちょっ
「気に入ったか?」
首筋に感じた柔らかなキスに思わず肩を竦める
そんな私を逃がさないように強く抱えられると、軽く広げられたTシャツの襟から露わになった肩に優しく落とされていく口付け
その行為と目の前の画面に表示された花言葉にどんどん恥ずかしさに溺れて行く
"白色のアザレアの花言葉は、
『あなたに愛されて幸せ』『満ち足りた心』です。"
こんなにもぴったりな詞もなかなか無い
「ほ、他には?一種類じゃ寂しいよ」
「全部を俺に任せるな、少しは自分で決めろ」
「....そんな事言われても私あんまり知らないし....」
「時間ならいくらでもある。ゆっくり選べばいい」
私は仕方なく再び"白い花"と検索をかけたが、止む気配が無い甘い空気に全く落ち着かない
確かに誰も居ないけど一応ここは一係オフィス
ガラス張りの向こうの廊下にはまだ明かりがついてる
もし誰かが通りかかったらと思うと頭が回らなくなる
「っ、伸兄!」
「何故中に何も着ていない」
シャツの中に入ってきた細長い指に腹部を摩られ、触れた指輪のややひんやりとした感触に反射的に小さく肩が震えた
「....な、無かったから....常守さん肌着は持って来てくれなかった」
「ならもう少し着込め。いくら室内で暖房が効いているとはいえ、風邪でも引いたらどうする」
こんな時でも心配性なのはよっぽど余裕があるのかな...
それとは裏腹に、これ以上無い程に近い距離と耳元から直接届く声に巧く煽られていた
私はそんな情を紛らわすように、手元のデスクの上に見つけた見慣れた眼鏡を手に取り自分の顔に掛けた
何一つ変わらない視界でパソコンの画面を必死に見つめる
「....和装の時に百合とか胡蝶蘭はどう?」
「お前が選んだ物に反対などしない。好きに選べ」
....どうにかなってしまいそうだ
特にこれと言った何かをされてるわけじゃないのに
強く脈打つ鼓動が自分のものなのか、背中から感じる伸兄のものなのかも分からない
「....名前、」
「な、なに?」
いつもと同じように名前を呼ばれただけで上ずってしまった返事
私はページをスクロールする事で"平気"だと見せかけよとした
「こっちを向け」
....今その顔なんて見れるわけがないと無言の抵抗をしてみるけど
「....聞こえているだろ、無視をす
「月下美人は無理だよね?一晩しか咲かないしやっぱり難しいかな。あの甘い香りも好きなんだけどな...」
効かないと察知し逆に喋ってみた
「鈴蘭も可愛いけど、小さ過ぎて映らないか....でも薔薇はあんまり好きじゃないし。あ、これどう?カラーって名ま....っ!待って!伸
強引に横を向かせられた私に、被さるように押し込まれた口付け
逃げ場も何も無ければ、むしろようやく与えられた求めていた熱に埋もれて行く
私は向き合うように体勢を変え、狭いチェアの上、少しだけ見下ろす顔に何度も吸い寄せられた
その最中で"カシャン"と小さく音がして、それで自分が眼鏡をかけていた事を思い出す
邪魔になるから外す事を試みる為に唇を引き離そうとすると、
「んんっ!」
"後にしろ"とでも言うように後頭部を押され、より深くなる交わり
「....部屋、戻る...?」
「....あぁ」