▼ 198
日曜日
本来なら家族や友人、カップル等の様々な笑顔に溢れるはずの街
そんな中私は公安局の執行官宿舎の一室で一人デバイスで動画を見る
どこを見ても目を背けたくなるような物ばかりで、ついにヘルメットを被ってない人達も暴行を始めた
本当は今朝、伸兄にはそう言った動画を『あまり見るな』と言われた
でもデバイスを弄る以外特にする事も無くて、結局ソファの上で怠けながら公安局の外の状況を目の当たりにする
....一昨日始まったばかりのこのヘルメット騒動
それが今では都市機能が麻痺しそうな勢い
書き込まれた大量のコメントには、
"警察は何してるの?"
"公安もお手上げらしい"
"安全な所で市民を見殺しかよ"
と公安局に対する罵りも多い
それを見る度に"そんな事ない、刑事課は頑張ってる"と心の中で反論してたけど、確かに刑事課に動きが無い
同僚達にも
"旦那様から何か聞いてないの?"
と言ったメッセージが何通も来て、皆も不安がってるようだった
結局今日の朝『どうなってるの?』と伸兄に聞いた所、待機命令が出てて動けないらしい
....まぁそれなら仕方ない
はぁ....どうなっちゃうんだろう
明日からはまた仕事だし、家にも帰る事になる
横たわるダイムの上に伸ばした脚を乗せる
直接肌に触れる毛並みがクッションみたいで気持ちいい
どうせ一人だからと、昨日の夜伸兄が雑に脱ぎ捨てたワイシャツをワンピースのようにして、ショーツ一枚の体に着せてある
それについても『なんとかしろ!』と曖昧な文句をその持ち主に突き付けられたけど、結局なんともしなかった私に伸兄は無理矢理予備のスーツのジャケットを着せて出勤して行った
長過ぎるその二重の袖から指先だけ出してデバイスの画面を操作する
物音一つしない部屋の中、いつの間にか日が暮れて月が見え始めた事に気付く
素足を床に下ろし冷蔵庫から水を取り出して三口程流し込んだ時に
「....っ、もしかして....」
鈍い腹部の痛みに襲われた
どうしよう....
持ってない
部屋の中で可能性として置いてありそうな所を探してもやっぱり見つからない
常守さんに連絡してみようとデバイスを取ると、公安局刑事課のパトカーが映った動画が目に入った
....やっと待機命令が解除されたのかな
それなら邪魔しちゃいけないと私はデバイスをテーブルの上に戻した
私はトイレに向かい、とりあえずの対応としてトイレットペーパーを丁寧に重ねてショーツの上に載せた
寝室に入り急いで着替えると、私はダイムを置いて足早に宿舎を出てエレベーターに乗り込み46Fのボタンを押した
扉の前、忙しそうだったらすぐに出ようと頭で決めてそのドアを開く
独特な機械音と共に見えた室内には、ほぼ同時にこちらを振り返った今日もグラマラスな唐之杜さん
「あら!どうしたの?」
「い、今大丈夫ですか?」
「えぇ、刑事課は今全員出払っちゃってるしね。私は暇してたところよ」
「あの....ナプキン、持ってませんか?」
そう聞くと少し困ったような顔されて、もしかして持ってないのかなと身構えてると
「....それは私、悲しんだ方がいいのかしら....?」
「....え?」
全く予想していなかった言葉を返され私も首を傾げる
「なんで悲しむんですか?」
「そりゃもちろん、だって"女の子の日"が来ちゃったんでしょ?」
「はい、そうですけど....それが何か?」
「まさか1ヶ月もご無沙汰してるわけないでしょ?」
「....何がですか?」
「だから"夜の営み"よ!」
「っ!なっ、そんな
「とびっきりセクシーなランジェリーを貸してあげるから、あの堅物監視官をその気にさせる誘い文句を一緒に考え
「ちょっと待って下さい!....唐之杜さん、誤解です」
ご無沙汰どころか昨日だって....とは言えないけど、私は実は同い年だと言う分析官に否定の意味を示すように手を振った
「....子供を持つつもりはありません」
「あら、そうなの?」
"なら余計な心配をしちゃったわね"と言いながら唐之杜さんはカバンからポーチを取り出した
実際伸兄とそんな話をした事はない
でもなんとなく、私はそう思ってるし、伸兄も"そういった行動"はしない
「全部あげるわ、私は部屋にまだあるから」
「ありがとうございます」
ポーチをそのまま受け取った瞬間に、電子音が鳴り響いた分析室
誰かから着信かな?
「ちょっとごめんね」
そう唐之杜さんが断りを入れて何かボタンを押すと、すぐに聞こえてきた声と画面に映った顔に危うくポーチを落としかけた
『おい志恩』
「そっちはどう?」
....狡噛さん
何故かそれだけで変な気まずさを感じる
『これから修羅場だ。公安局からノナタワーの監視カメラをチェック出来るか?』
ノナタワー?
厚生省の?
そんな所の監視カメラをどうして?
「厚生省は一応上位組織なのよ?」
『出来ないのか?』
「裏口使っていいならできるけど...?後で責任問題とかになったりしたら嫌だな...」
すると画面の中の狡噛さんは、向かって左側に顔を逸らした
誰か居るのかなと思っていると、その答えはすぐに示された
『うっ...分かりました、責任は全て私が取ります!』
「今の言葉記録しちゃったもんね!オーケー、裏口の鍵を使っちゃいましょ」
そんな事して大丈夫なのかなと赤の他人である私が心配するのも意味が無いし、物凄い速さでキーボードを叩き出した唐之杜さんに私は一礼をして分析室を出た