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ここに槙島がいる

ノナタワーのエントランスで俺は意気揚々としていた

やっと手の届く位置まで来たんだ
絶対にこのチャンスを逃すわけには行かない


「次はギノに連絡だ、監視官」

「はい」


常守がギノに状況を説明している間、俺はただ槙島の事を考えた
ノナタワーに一体何の用だ
この建物の中に何がある?


『....分かった。常守監視官、あと、聞こえてるか?狡噛と縢』

「へーい」


そんな緩い返事をした縢と共に、通話の向こうの声に耳を傾ける


『暴動はまだ続いてる以上、タワーの方は俺達一係で対応する。いいか、もしも本当に槙島がいたら....』


そこで言葉を詰まらせたギノに小さな違和感を抱く


『逮捕しろ。尋問の必要がある。必ず生きたまま捕まえるんだ』


そう丁寧に強く言い放たれた命令は、完全に俺の意思の真逆だった
....佐々山の死を思い出す
あいつは死ぬべきじゃなかった


「....努力してみる」

『努力するのは当然だろ!重要なのは結果だ!』


....何かあったのか?
やけに必死な声調に思うところはあったが、今はそれを考えてる暇は無い


「....どうしました?」

「....いや、ちょっとな」

「ギノさん達の到着待ちます?」

「冗談よせよ」

「ですよねー」



































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「....クソっ、俺達も行くぞ!」


ドミネーターで捌けない槙島に対し、狡噛は殺意を持つ程憎んでいる

局長に言われた言葉を思い出す
"ただし殺すな、即時量刑即時処刑はシビュラあっての制度だ"

....なんとしても槙島を無事に公安局に引き渡さなければならない
そうでなければ名前が


「おい、伸元」


車に乗り込みノナタワーに向けてアクセルを踏み込んですぐそう名前を呼ばれ、どうしても嫌悪感が生じる


「....お前何を抱え込んでる?」

「.....」


ハンドルを握る手に力が籠る
通りの向こうで別の係が電磁パルスグレネードを投げたのが見えた


「何があった?」

「貴様が知る必要は無い」

「お前がそんなになるんだ、名前の事じゃないか?」

「っ、知ったような口を聞くな!貴様に何が分かる!」


高速入口前の赤信号に慌ててブレーキを踏み込む
後部座席に座る六合塚は一言も発しない


「....執行官は監視官の命令に従っていればいい。これから俺達は厚生省ノナタワーに向かい、槙島を見つけた場合は逮捕する。ただその職務に集中しろ」

「それはお前の命令か?それとも上からの命令にお前が従ってるのか?」

「言っただろ!奴には複数の嫌疑が掛けられている。その真相を知る為にも尋問の必要がある」

「....コウは殺すだろうなぁ。それはお前も分かってるだろ」

「そしたらあいつはまた施設に戻る事になる。....狡噛は馬鹿じゃない」



俺はそう自分に言い聞かせ祈るしかなかった
それ程狡噛が手を下してしまう可能性を頭では肯定していたからだ

....だが向こうには常守がいる
確かに友人を殺され、狡噛と同じく槙島に憎悪を抱いているはずだが、そんな愚かな事をするような人間じゃない



「....監視官、本部分析室からの情報で縢との通信が途切れたそうです。タワーの地下に向かっていた最中に突然信号をロストしました」

「.....」

「あいつが逃亡するわけないだろう、電波暗室にでも入ったんじゃないか?」

「ノナタワーの地下にそんな場所はありません。現在狡噛と常守監視官は上へ向かっていて、その先に槙島がいるようです。しかし狡噛は、敵の本命は下だと推測しています」


その下に向かった縢と連絡が取れないのか
....全く、次から次へと

俺も縢が逃亡を図るとは思えないが、万が一があった時に責任を問われるのは監視官だ
だからこそ、執行官を一人で行かせるべきではない


「敵は上と下に4人ずつに別れています。....縢は敵と遭遇した場合1対4、....何かあったのかもしれません」

「....あと15分でタワーに到着する。着き次第本部と連携を取り、下へ縢の援護に向かう。だが常守監視官らから応援の要請があった場合はその限りではない。どうなっても対処出来るように準備をしろ」





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