▼ 205
どうなってる...
突然の非通知からの着信を取ると、聞こえて来たのは自身に焼き付けるように何度も繰り返し聞いた男の声
....槙島....
シビュラの正体を知り、それは俺が命懸けで守る価値は無いと言った
そもそも槙島は捜査権を失った俺達から逃れ輸送されている筈だった
そんな時に俺に直接かかって来た通話に"まさか"という思いを抱いた俺は急いでギノに連絡を取った
「....あれか」
そしてやって来たのが無残に墜落した輸送機の現場
燃え盛る炎にドローンが放水している
まだヘルメットの暴動から完全には復活していない東京の街に墜ちた鉄屑に降りかかる雪
ちょうど誰かの遺体と思われる物が右側で運ばれて行った
「そこをどけ」
「刑事課一係、宜野座監視官。該当する情報適格性はありません。立ち入りを禁じます」
「なんだと...?」
そうドローンに進行を止められたギノに俺も思わず眉をひそめる
何をどうしたら公安局刑事課一係の監視官が事故現場に立ち入る事が出来なくなる?
槙島が逃亡したんだぞ
つい昨日俺達が捕まえた槙島聖護が....!
困惑を隠しきれない一係の横に颯爽と停まった一台の黒い高級車
....あれは見た事がある
「説明は私がしよう」
「局長...」
「来たまえ、宜野座君」
「....常守監視官、執行官達を見張っていろ」
「は、はい....」
禾生局長と共に車の中へ消えていったギノを見送り、俺達は未だ消えない赤い炎と、立ち込める黒い煙を見ていた
....おかしい
何もかもが特異過ぎる
丸2日以上この都市を混沌に陥れたヘルメット騒動
それに乗じてノナタワーを襲撃した槙島
本命だと思われた地下に向かった縢は尚も行方不明
二係の神月は簡単に追跡されたと言うのに、縢に関しては損壊が著しいドミネーターが見つかっただけだ
そして槙島の取り調べすら俺達には許可されなかった矢先、車ではなく航空機で護送されドローンのみの同乗だと...?
それだけで充分に異常なのに、おまけに逃亡と来た
厚生省の上層部は何を企んでる?
一体どういうつもりなんだ...!
こんな事なら....こんな事ならあの時俺の手で殺しておけば!
「あ、宜野座さん、どうでしたか?」
ギノを下ろした黒塗りの車はそのまま去って行き、俺はその眼鏡の奥の目線とこれ以上無い程にぶつかった
....なんだ?
局長に俺の事でも言われたのか?
「....今日はもう遅い。既に一日縢の捜索にあたり疲れているだろう。話は明朝勤務が開始した時にまた改めてする」
そう告げたギノはどうも苦しそうな様子だった
また納得行かない命令でもされか
常守はギノと共に、俺達執行官はいつものように護送車に乗り込んだ
唯一違うのは、一つ増えた空席
....クソっ
「なんだかなぁ....、縢の失踪に続いて槙島が逃亡。公安局はどうなっちまったんだ」
「また槙島を一から探す事になるのかしら....」
「ドミネーターで捌けない犯罪者を探すのはそう簡単な事じゃないぞ。まぁ、それこそシビュラが導入される前は推理や推測から犯人を追っていたがな」
「....仕方ない、こうなった以上全力で探し出すしかない」
そして今度こそ
今度こそ奴の息の根を
「とりあえずは明日、伸元から局長の話を聞くとしよう。コウ、」
そう俺の肩に手を置いたとっつぁん
「お前の気持ちは分かる。だが今は落ち着いて、ただ体を休めな。このままなら明日からまた大仕事になる。その為にもしっかり活力を補え」
「....とっつぁんは相変わらずだな」
「年寄りの心配なんざ若者には鬱陶しいかもしれんがな」
「いや、頼りにしてるぜ」
宿舎に帰った俺は、また一本タバコに火をつける
「....はぁ....」
シビュラシステムの正体
槙島はシビュラをも操っている人物と接触したんだ
そしてそこで"俺が守る価値のない"正体を知った
....だがそれが何であれ、あいつは許されるべきじゃない凶悪犯には変わりない
このまま上が曖昧な行動を続けるなら、槙島がそいつらの手に渡る前に
そう心に決めていたのに、翌日ギノから宣言されたのは俺を捜査から外すという局長命令だった