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「ん....伸兄...今何時....?」


重い目蓋に争う気力すら無く、ただ眠りから覚めた意識だけを声に乗せて隣に居るべき人物に投げる


「....伸兄?....あれ?」


返って来ない返事に腕を伸ばしてみるとどこまでもシーツが繋がっていて、思わず目を開くとやっぱりいない

....そういえば朦朧としていた中で"先に仕事へ行っている"と言われたような
それが何時頃だったかも、そもそも夢か現実かも分からない

徐に体を起こしてパジャマの袖で目元を擦る

....今日は自分で出勤しなきゃか....
電車の時間を調べないとと思いデバイスを取ると、


「....え!うそ!」



出勤時間40分前



遅刻するわけにはいかないと、私は瞬時に眠気を捨てて急いでスーツに着替え身支度を整えた

オートサーバーで適当な朝食を用意すると、かき込むように喉に押し込む

乱雑にダイムの頭を撫でて


「行ってきます!」


と言った時には電車に間に合う時間じゃなくて、エレベーターで降りた先で仕方なくタクシーを止めた



















「あ、珍しいね!遅刻ギリギリじゃん」

「ね、寝坊しちゃって....」


一人で寝る時じゃなければいつも朝起こして貰ってたから、恐らく早朝に伸兄が仕事へ出て行ったせいで目覚ましも、起こしてくれる人もいないという状況だった

2分前という時間だけど、何とか間に合った
....タクシーの運転手さんに無理させちゃったかも


「もしかして宜野座さんがいなかったのかな?」

「....目覚ましセットし忘れたの!」


図星ではあるけど、肯定したら余計"自立してない"って言われそうで変に意地を張ってみた
実際それも正しいんだけど....


間も無く始まった人事課全体での朝の挨拶を、いつものように聞き流して再び席に着く

今週はほとんどヘルメット騒動の後処理の話で、何かしら被害があった人は申請すれば厚生省から補償が下りるらしい
伸兄からは何も聞いてないし、特にこれといった不便も無い事から"私は別にいいかな"と名乗り出ていない

それから街の監視システムの何割かはまだ調整中らしく、完全復旧までは今日含めてあと5日らしい
つまり来週の月曜日
その時にヘルメット対策のプログラムも施行されるとか


そして来週の月曜日は、現在人事課が苦しめられている総務課との合同作業の締め切りでもある
何とか自分の担当は今日の午前中には終わらせられそうで、同僚から10ページ程追加で預かった分を午後と明日金曜日でこなせば週末家に持ち帰らなくて済む

そんな心の余裕からデバイスでアイススケートのコツを調べてみたり、週末への期待を膨らませる


....触れて欲しくなさそうだったから私も流しちゃったけど、やっぱり泣いてたよね...?
確かにここ数日やけに疲れてそうだったし、仕事で何かあったのかな....

心配にはなるけど、話してくれない限り仕事の事となると私も無理には踏み込めない
だからこそ週末の外出は、全部忘れてただ一緒にはしゃぐように楽しみたい


「あれ?名前スケートするの?」

「え!あ、いや....」


そう突然手元を覗き込まれると、サボってたのがバレたような焦りに素早くデバイスをポケットに仕舞う


「....ほら、新宿の。行ってみようかなと思って」

「あぁ!明日リオープンだよね?いつ行くの?みんなで一緒に行こうよ!」

「バカ、そんなところに名前が一人で行くわけないじゃん。どうせ旦那様とラブラブデートでしょ?」

「あーもう....そんな言い方しないでってば」

「イチャイチャするのはいいけど、私達のことも忘れないでよね?」

「忘れてないよ!昨日だって鍋したばっかりじゃん。それじゃ来週仕事後に行く?私が週末偵察して来るから」

「いいね!ちょうど締め切り月曜日だし、乗り切ったお祝いとしてその日に


「そこ!私語は謹みなさい!」


そんな喝がオフィスの奥から飛んできて、私達はそれぞれ自分のデスクに向き直った






























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対角線上に並ぶ空席

縢君と狡噛さんのデスクだ


「もう全員に連絡がいったと思うが、狡噛が逃亡した。疑問の余地は一切無い」

「...はい」

「奴は槙島を追うだろう、我々も追いかける。逃亡執行官と遭遇した場合は速やかに処分しろ」


そういつも通り指示を通達する宜野座さんも今はいつも通り冷静だけど、私が"逃亡した"と連絡を入れた時は声だけでも驚きと焦りは伝わって来た

それからすぐに刑事課一係オフィスに出勤して来た宜野座さんは、やっぱり悔しそうな苛立ちを静かに湧かせていた


私のポケットをやや膨らませているのは、狡噛さんが捨て切れなかった名前さんへの気持ち
....まさかゴミ箱まで漁られるとは思ってなかっただろうな

その"想いの束"を私は、名前さんに渡していいのかと迷っていた

少し前に縢君の失踪についても、名前さんには言わないで欲しいと宜野座さんに口止めされた
きっとショックを受けてしまうから

それなら狡噛さんの逃亡も伝えないべきなのではと考え、どうしても渡せずにいる

....結局どうすることも出来ない自分への自信の無さと弱さ故だと思う


もし名前さんの目の前で、堂々と"必ず狡噛さんを連れ戻す"と言ってあげられたら





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