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「....そうだ、朝確かに今日は高校の友達と久しぶりに会うと言っていた....」

「参ったな...名前は元から色相が濁りやすいんじゃないのか。下手したらサイコハザードに巻き込まれるぞ」


俺の言葉にギノが分かりやすく青ざめていく

画面越しの名前は他の女性3人と一緒にアパレルショップで隠れている



「....突っ立ってても何も始まらない。ギノ、館内放送で人質の解放を求めろ。」

「マイクはこちらです、監視官」

「....クソ」











ギノが犯人への要求を準備している間に、俺はスクリーンを見つめながら名前へのコンタクトを試みる

突然の着信音に本人を含めた女性4人が慌てて口を押さえる



『も、もしもし!狡噛さん!?』

「名前、無事か?怪我はないか?」

『やっぱり来てくれてるんですね!急に男の人の声でアナウンスがあったんです。“動いたら殺すぞ!”って。でも、刑事課がもう来てるなら安心しました...』


とても安心出来る状況ではないが、無駄に怖がらせて色相を濁らせるわけにはいかない

出来るだけ優しい声色を


「あぁ、もう大丈夫だ」


その傍ら的確な情報と指示を


「名前、よく聞け。お前から見て右上、カメラが見えるか?」

『....ありました!』

「それが今名前達から1番近い防犯カメラだ。それだけじゃなくて全カメラを俺達は監視してる。こうやって通話するのが難しい時があるかもしれない。何かあったらカメラに向かって何かサインを出せ」

『わ、分かりました...』

「....心配するな、俺もギノもいる。楽しい事考えてろ」

『....狡噛さん、これが終わったらハグしてくれませんか?』



予想外の要求に、画面越しにこちらを見つめる名前から目が離せなくなる



「あ、あぁ、もちろんだ」

『ふふっ、了解です!楽しい事、考えながら待ってます!狡噛慎也監視官!』

カメラに向かって拙い敬礼をする名前が微笑ましい





































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狡噛さんからハグ....

考えただけで顔に熱が集まってしまう

「ねぇ名前....今通話してた相手って、まさか高校時代有名だった狡噛慎也先輩....?」

「私もそれ気になってた!」

「どうなのよ名前!」


なぜかそのまま肯定する気にはなれなくて


「あ、まぁ...そう、多分?」

「多分って何よ!先輩、監視官になってたんだ....さすがだわ」

「それよりハグって!名前、先輩とどういう関係なの!?」

「あ、兄の友達ってだけだよ!」


別に間違った事は言ってない



そんな事を話していると突然アナウンス前の独特なチャイムが鳴った

またさっきの男の人からかと身構えていると、聞こえてきたのは10年以上も聞いてきた慣れ親しんだ声だった



『こちらは公安局。森下静哉、この建物はすでに我々が包囲している。無駄な抵抗はせずに、速かなる人質の解放を要求する。繰り返す。お前は既に公安局に包囲されている。速かに人質を解放しろ』



声の調子は全く変わってないのに、前半と後半でまるで威圧感が違う
普段の感情任せに怒ってくる伸兄からは想像もつかない低く冷酷な声
こっちの方がよっぽど怖い



「今の放送した人絶対カッコいい!」
「ああいう風にだったら毎日怒られてもいいかも....」
「えっ」

....かっこいい...はそうかもしれないけど、毎日怒られてもいい、はあり得ない
毎日じゃなくてももう懲り懲りなんだから
私に言わせれば、“黙ってればイケメン”なタイプ





「きゃっ!」

唐突な悲鳴にそちらを向くと、一緒にいた友達の1人が変なモノを腰に巻いた男性に掴まれていた
この人が犯人....?

「お前らも一緒に来い!」

言われるがまま私達も立ち上がると、そのまま中央広場に連れて行かれた


そこにはもう既に50人以上いて皆地面に座らされていた

そして、その男に全ての通信機器を没収された




「こいつらで最後か....さっさと座れ!」



体勢を下ろしながら周りを見渡す


カメラは...カメラはどこ



















「おい公安!聞こえてるんだろ!人質解放してほしいんだったな。お望み通り、そうだな、10人解放してやるから、ピザ持ってこいよ!」



要求がピザだなんて、完全に公安局を嘲笑してる
こんな男に負ける程刑事課は落ちぶれてない




『要求を飲もう。こちらの職員を送る。その時にピザと人質10人を引き換えだ』




「やったね!10人誰にしようかー」

ジロリとこちらを見る男の目が気持ち悪い


「子供を先に逃してあげて下さい!」

どこかの母親が悲痛に叫んだ
だけどそれも虚しく、

「誰が喋っていいって言ったんだよ」

理不尽な返答がされた







結局選ばれたのは健康体な男性達

....非力なのを残しておきたいって事ね




少し心が曇った気がする

「ダメ、楽しい事考えるの」

そう小声で自分に言い聞かせる




















10分後入ってきたのはお父さんだった

私を見つけるや否や複雑そうな顔をしてすぐに目を逸らされた

私を変に目立たせないためだろう

刑事課と繋がってるだなんて思われたら、何をされるか分からない


先ほど選ばれた10人の男達がお父さんと一緒に消えていった





美味しそうなピザの匂い

それとは裏腹などんよりとした空気




あぁもう!悲観になっちゃダメ!
狡噛さんが大丈夫だって言ってた
きっと助かる
そしたらハグだよ私!
嬉しいでしょ!


想像してしまいそうになるのを急いで掻き消す
お楽しみはその時まで取っておくのが基本だよ





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