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「コーラ持って来い!」

「次は酒とタバコだ!」




あれから約3時間
犯人の森下はひたすらにふざけた要求をして人質を半分以上解放した

しかし現段階で残った15名は全員若い女性
同じ女として苛立ちを覚えるが、執行官である以上、監視官の指示が無ければ動けない
エリアストレスだって徐々に危険値に近づいている

「監視官、最後の人質解放からもう1時間が経過しています。森下はこれ以上解放する気は無いと思われます。」

「分かっている!だからと言って突入するわけには行かない!」



監視官が指示を出せない理由は理解してる
突入した反動で森下がスイッチを押してしまったら取り返しがつかない
それに人質の1人には、監視官2人の知り合いが。
冷静を保ってる狡噛監視官とは反対に、宜野座監視官は今にも限界を迎えそうだった








それぞれが沈黙に加担していた時

「....おい、名前にズームしてくれ」

それを破ったのは狡噛監視官だった

「はい、....何か言っているようですね」



まっすぐにカメラを見つめる名字さんは、大きく口を動かしていた



「何て言ってるんだ?後半は“助けて”だよな?」

全員で名前さんの口元に集中する












「.....にんぷ、妊婦を助けてだ」

狡噛監視官の言葉に、名字さんからズームアウトして妊婦の女性を探す

「...苦しそうにしてますね、もしかして陣痛が始まってるのでは...」



そこで気付く

これはチャンスだと




「宜野座監視官、人質交換をしましょう。妊婦の女性と入れ替わりに私が行きます」



しばらく悩んだ様子を見せた宜野座監視官に、狡噛監視官が私に問う


「....いいのか六合塚」

「そのための執行官ですよ」



少し息を吐いた宜野座はマイクに向き直した

「...分かった、マイクを点けてくれ」



覚悟は出来てる

ここで何も出来ずにいる方が辛い



「公安局だ。妊婦の女性を解放しろ。その代わりにこちらの女性職員をそちらに送る」



監視官の合図でマイクの電源を落とす

森下の返答を待つため全員がスクリーンに注目する
























「....なっ!名前!」

そう画面に向かって叫んだ宜野座監視官が座っていた椅子は、急に立ち上がった反動で床と並行に倒れる


どこからかバールの様な物を持ち出した森下は、監視カメラを一つ破壊した
それに反応してしまった名字さんの髪を乱暴に掴むと、そのまま引きずりながら中央広場を映す全てのカメラを破壊していった

痛い、離してと悲痛に叫ぶ名字さんの声が、最後のカメラが壊される直前までこの部屋で響いた




「......」

半分ほどただの黒い画面になってしまったスクリーンを、皆唖然として見つめる

あまりにも急速な展開に、刑事課一係はただ立ち尽くしていた









「....俺のせいだ、俺の決断のせいで名前が」

「しっかりしろギノ!お前は正しい判断をした。お前に責任は無い!名前は大丈夫だ、あいつはそんなに弱くない」


そう説得する狡噛監視官も焦りの色は隠し切れていなかった

その傍ら人質交換を提案したのは私だ
でも自分の責任だとは何故か言い出せなかった


「ギノ、名前は俺達刑事課を信じてる。それを裏切ってもいいのか?突入出来なくても監視官として、やれる事はある。なんとしてでも助け出すんだ。そうだろ?」



私と征陸さんは、監視官2人になにも言い出せないでいた


そのまま沈黙が数分続いた頃、落ち着きを取り戻した宜野座監視官は鋭い眼差しを私に向けた





「.....六合塚執行官」

「はい」

「現場への潜入を命令する」


同時に狡噛監視官からドミネーターを受け取る
シビュラの目
公安局が誇る最強の武器



「六合塚、ドミネーターの携帯を許可する。スタンバトンは持っているか?」



受け取った銃を腰のホルダーに仕舞う


「はい、大丈夫です」

「無茶はするな。突入のタイミングがあれば何らかの合図を出せ。全員で応援に入る」

「分かりました」



もちろん不安もある
私に出来るのかと
でもそんな事は言っていられない、私は執行官の役目を果たす義務がある

そう覚悟を決めて部屋を出ようとした時、腕を掴まれて慌てて後ろを振り返る



「六合塚、必ず無事に連れ出してくれ」

誰をとは言わない狡噛監視官の意思は簡単に理解出来た

「了解しました」
















































中央広場にやって来た私は自分の目を疑った


「あれ?もしかして公安の人?」

なにこれ...
ひどい

「要求に応じたつもりはなかったんだけどな...でもいいや、結構可愛いじゃん」

14人の女性は、皆服を脱いで下着姿で一列に正座をしていた
もう1人の女性、名字名前もまた同じ格好で森下の横に座らされている


「じゃあ妊婦のお前、行っていいぞ」


すると大きなお腹を抱えた女性が、早足で私に近付き短く一礼すると非常階段へ消えていった









.....どうすればいいの





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