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『宜野座さんと六合塚さんは霜月監視官のサポートを!』

「了解」

「なっ、一人で突っ込む気ですか!?」


廃棄区画に逃げ込んだ犯人の追跡中だ

まだ配属されて1ヶ月も経ってないけど、先輩の行動は理解出来ない時が多々ある

学園を卒業して私はすぐに、公安局刑事課に監視官として採用された
未成年の登用という異例の人事

2ヶ月前に大きな事件があったそうで、配属された一係は、学園で見た時よりも大幅に人員が減っていた
あの時監視官だったはずの宜野座さんと、幼馴染みを亡くした私を慰めてくれた弥生さんの二人が執行官
それに対して、私と先輩で監視官も二人
理想的な形からは執行官が二名足りないけど、それでも今のところ不便はしてない

それでも、先輩の執行官を盾にもしないで、対象である潜在犯にも慈悲をかける姿は同じ監視官として疑問を持つ

....何の為に執行官がいると思ってるの
それに、潜在犯の恐ろしさを全く理解してない

私達の任務は、執行官を上手く使って自分自身を守りながら、シビュラが下した判断の元速やかに処理を行う事

それなのに....


「言いたい事は分かる、俺も以前はそう思っていた。だが

「っ、執行官の意見など聞いていません!」


自分のサイコパスすら保てず潜在犯に落ちた宜野座さん
そんな失敗者の話など余計に聞く価値は無い


「もう少し肩の力を抜いてもいいのよ」

「....弥生さん...」

『こちらシェパード1、対象の執行完了』













「遅くなってすみません。犯人の搬送に手間取ってしまって」

「私達もいますから、あまり無理しないでください」


弥生さんの言う通り....いや、"無理"ってレベルの話じゃない
執行官を後ろに残して一人で追いかけて処理するなんて、監視官がするべき事じゃない


「じゃあ宜野座さん、行きますか?」

「いつもすまないな」

「いえ、これも私の任務ですから。霜月さんと六合塚さんは先に局に戻って各自退勤して構いません」

「....分かりました」


そう言って去って行った元一係を共に指揮していた二人の背中を見送って、私と弥生さんもそれぞれ運転席と助手席に乗り込んだ


オートドライブでナビを公安局に設定して、私はずっと気になっていた事を口にした


「....先輩と宜野座さんって、よく一緒に外出してますけど何してるんですか?」


宜野座さんに対しては分からない事が沢山ある

左手の義手を隠すようにしている手袋の上には、いつも銀色に輝く指輪
結婚なんてしてないのに、まさかファッションとしてしてるのを間違えて左手薬指にしてるとか?

それに、学園で見た時も、私が配属された時もやけに前髪が長かったのにこの間急に短くなって
前は眼鏡だってかけてたような....

そしてやけに外出が多い事
非番含め当直以外の時間は、ほぼ必ずと言って良い程外出許可を先輩に申請してる
それを先輩もほとんど受理していて、一緒にオフィスから出て行くのもよく見かける
今日みたいに、事件後にそのままどこかへ行くのも


「....まさか、付き合ってないですよね?」


監視官と執行官の恋愛なんてあり得ない
....でも執行官や潜在犯に対して考えが甘い先輩なら、可能性が無いわけでも....


「それ、絶対宜野座さんに言わない方がいいわよ」

「え?」

「彼にとって本当に大切な人は一人だけだから。....いつか会えるといいわね、可愛らしい人よ」

「....誰の事ですか?」

「彼が何よりも愛してる女性の事」
































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「すみません、この写真の女性を見た事はありませんか?」

「今忙しいんだよ!後にしてくれ!」


都内に廃棄区画自体の数は多くないが、一つ一つがある程度の広さを有している
ほぼ町一つ分はあるだろう

カメラもスキャナーも無くドローンも入れないとなると、こうして少しずつ情報を聞き込んで、所謂"足で捜査"しなければならない

それを仕事以外に時間が許す限り、常守に同伴してもらいながら行なっている
だが未だ有益な情報は無い
....シビュラの無い時代は人一人探す出すのに、こんなに苦労しなければならなかったのかと、警視庁の刑事だった自身の父親を今更敬う


「....なかなか見つかりませんね...もしどこかの建物の一室に誰とも関わらずに篭ってるとしたら、見つけるのはかなり困難になりそうです」

「....デバイスを捨てたのは絶対に名前の意思じゃない。あいつがわざわざ道路のど真ん中に捨てるとは考えにくい。なら誰かに捨てろと言われたはずだ」

「つまり....その誰かと一緒にいると?」

「....少なくとも俺はそう思っている」

「なら私も賛成です。名前さんの事で宜野座さんの考えが外れた事はありませんから」

「あまり潜在犯を信用し過ぎるのもどうかと思うぞ」

「名前さんにも同じ事を言えますか?」

「....はぁ....分かった、信じてくれ」





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