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「あ、宜野座さん、購入申請されてた物が届きましたよ」


そんな先輩の声が響き渡ったオフィス内で、私は悶々としていた
この後先輩と宜野座さんはきっと"外出"に出るからだ


「先に取りに行きますか?」

「ついででいいだろう」

「分かりました。じゃあ霜月さんと六合塚さん、あとはお願いします」


そう一緒に出て行った光景はもう何度目かも分からない
私が監視官になってから5ヶ月が経とうとしてる
9月になったとはいえ、まだまだ気温が高いのに飽きもせずに宜野座さんの"元妻"を探してるらしい

馬鹿みたい

そんなに大事だったなら潜在犯に堕ちなければよかったじゃない
それに、"生活に支障をきたす程強い影響を及ぼしている"から離婚させられたのに、逆に近付こうとするなんてそれこそ危険な目に遭わせるだけ
本当にその人の事を思ってるならそんな事しない

見つからないのも、それだけ避けられてるって意味でしょ
いくら元夫だとしても誰が潜在犯なんかに会いたいと思うのよ



....一応先輩にも親切心で忠告はした


『先輩、もしかして宜野座さんが元先輩監視官だからって贔屓してるんですか?』

『そんな事無いけど、どうしてそう思うの?』

『宜野座さんの元妻の事は聞きました。厚生省が"二人は一緒にいるべきじゃない"と判断したんですよ。これで無理矢理引き合わせて、何かあったら監視官である先輩の責任になります』

『厚生省は宜野座さんと名前さんの事を何も知らない。ただの記録だけで判断されたものと、私がこの目で見て来た二人の想い、どっちがより正しいと思う?』

『....シビュラシステムや厚生省を疑うつもりですか?』

『シビュラは確かにこの社会の秩序を維持する為には必要不可欠。人々の様々な情報を色や数値で表して、それは正確で分かりやすく信用価値があるものだと思う。でもね、それが全てじゃない。二人はシビュラの判定で出会ったわけじゃないのよ』

『....今の時代そんな人いるんですね。だからこそ離婚する結末になったんじゃないですか?最初から相性悪かったって事ですよ』

『霜月さん、シビュラの相性適性の類で100%の判定って見た事ある?』

『....あるわけないじゃないですか。100%相性がいい二人の人間なんて存在し得ません』

『裏を返せば、"絶対"であるシビュラも確信を持てない対象物があるって事よ。宜野座さんと名前さんの相性が悪いかはあなたが直接見て判断して。必ず見つけ出すからいつかは会えるはずよ』

『....もしその離婚した元妻が拒絶したらどうするんですか。それでサイコパス悪化しても厚生省は既に警告したんですから何も言い訳出来ませんよ』

『私は少なくとも名前さんに関しては、シビュラや厚生省より宜野座さんの方が遥かに信憑性が高いと思ってる。そう判断して宜野座さんを信じてるだけよ』

『....どうなっても私は知りませんから』

『大丈夫よ。それと"離婚した元妻"なんて言わないであげて。戸籍上その記録すら消されちゃったけど、誰が何と言おうと私達は誰も宜野座さんが離婚したとは認めてない。今でも二人は強く愛し合う夫婦よ』


意味分かんない
厚生省が強制介入する程の悪影響があったから婚姻関係を解消された
その元妻も会いにも来なければ見つかりもしない
この状況でどう考えれば、監視官として探し出す事に協力できるのよ
今すぐにでも宜野座さんの暴走を止めるべきなのに




「霜月監視官、昨日の事件の報告書をそちらに送りました。確認していただけますか」

「....六合塚さん、宜野座さんの元妻ってどんな人だったんですか?」


唐之杜分析官にはその姓も画像も見せて貰えなかった
"一般市民の個人情報なんていくら監視官でも事件性が無いなら協力出来ない"って


「逃亡した狡噛慎也執行官は知ってる?」

「....資料だけは」

「その狡噛がただ一人愛した女性でもあるわ」

「....え?」

「名前さんの魅力って結局のところあの純潔さにあったのかもしれないわね。刑事課には似つかない要素でしょ」

「ちょっと待ってください!....不倫関係だったんですか?」

「そういう事じゃないけど、あの三人の関係性は複雑なのよ。私が示した例が悪かったわね。志恩も可愛がってたし、それ程愛されてた人よ」

「....そんなによくここに来てたんですか?」

「名前さんは公安局一般課の職員だったのよ」


....ま、まさか監視官だった宜野座さんが職場恋愛
いよいよ気持ち悪いじゃない
シビュラの目を司る者が、シビュラすら介さないで仕事で出会った女性に手を出すなんて





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