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「私も脱ぐべき?」



名字さんは泣いてこそいないものの、ずっと一点を見つめて震えている
監視官の話によると色相が濁りやすいのだとか
規定値さえ超えなければ良いんだけど...



「強気だね、そういうのは恥ずかしがりながらじゃないと意味ないじゃん。いいよあんたは脱がなくて」

「それはありがたいわ」



爆弾のスイッチは森下の手中には無いものの、すぐ手元に置いてある
これじゃ取り押さえることが出来るほどの余裕が出来ない

監視カメラが破壊され外部からの接触が出来ない今、監視官達はすぐに突入できる場所で待機しているはず

男の注意が他に向いた時を待つしかない



「でもあんたは公安だ、何されるか分かんねーしそれ以上近づくなよ」

「何が目的なの」

「関係ないだろ」

「質問してるのはこちらよ」



全く目的が分からない
つい昨日までは善良な市民だったはずなのに



「はぁ....なんか急に嫌んなったんだよ。何もかもが。彼女も出来ねーし、金持ちにもなれない。何かデカいことをやって見たかっただけだよ」


...呆れた
そんな身勝手な理由でたくさんの人を巻き込んで


「やっぱりハーレムっていいね!若い女がこんなにも裸同然で俺に仕える。一度味わって見たかったんだ」

「....気色悪い」

「女には分かんねーだろうな。そういえばまだ君の罰を決めてなかったな」

「っ!放して!」



強引に立たされた名字さんは、バランスを崩しそうになる

....まずい、今のあの子の犯罪係数次第では本当に危ない。
かと言ってこの状況でドミネーターも使えない。
ドミネーターで執行するよりもボタンを押す方が圧倒的に早い


「まさか公安と繋がってるのが人質に紛れてたなんてね」

「違う!私は何も知らないってば!」

「その子を離しなさい!」

「ちなみにお前処女?」


私を完全に無視して名字さんに禁断の質問をぶつける


「なっ!あんたになんか教えるわけないでしょ!」

「その反応は処女だろ、いーねぇ....一回でいいから抱いてみたかったんだよ」

「ふざけないで!さっさと離し....」



そこで何かに気付いたような名字さんと目が合う

な、なに?
何に気付いたの


































っ!.....そういう事ね

それなら、


と私が女性達に逃げる事を指示するのと、
監視官達の突入、
それに気付いた森下が名字さんを引き寄せて喉元にナイフを突きつけたのは同時且つ一瞬の出来事だった



「ナイフを捨て人質を解放しろ!」


狡噛監視官の声に私もドミネーターを引き抜く



携帯型心理診断鎮圧執行システム、ドミネーター、起動しました。
ユーザー認証、六合塚弥生執行官、公安局刑事課所属。使用許諾確認、適正ユーザーです。



爆弾とスイッチはダミーだったのだ

森下に自害する欲が無いのと、名字さんが体重をかけた部分がまるでペットボトルに凹んだ故






公安局の突入にて事態は収束するかと思いきや、そう簡単な事ではなかった


4丁のドミネーターが森下に向けられるが、


「クソっ、無駄な抵抗はやめて人質を解放しろ!もう貴様に逃げ道は無い!」


なかなか照準が定まらず、セーフティの解除とロックが繰り返される

表示されてる犯罪係数は、203と78


「近づいたらどうなっても知らないぞ!」

「ぃ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」



白く清らかな胸元に鮮やかな赤が首から垂れる


その瞬間78と示されていた片方の犯罪係数は86まで上昇
もうあの子も限界




「名前!俺を見ろ!大丈夫だ、ギノもいる、大丈夫だ」
「...うぅ...もう....無理です...」


89


「やっぱりお前らグルだったじゃねぇか、お前俺に嘘ついてたな」

「やめろ!やめてくれ!!」


そんな宜野座監視官の説得も虚しくナイフの刃はさらに深く潜る











甲高い絶叫がこだました


94



「コウ!もう時間が無いぞ!」

「クソ!名前、お願いだ、俺の目を見ろ!」


涙を滲ませた彼女はもはや焦点が合っていなかった



96



ドミネーターに表示される犯罪係数がカウントダウンのようで、より一層私達を焦らせた



「は!公安局って大したことないじゃないか!4人もいながら人1人撃てないとか!」


嘲笑を含んだ言い方にこの上なく苛立った






98





「伸、兄....の..ぶ....」


カクカクと震えながら音を紡ぎ出す名字さんは相変わらずどこを見つめているのかも分からない





99


















































「皆俺の事忘れてない?名前ちゃんもブラコン発揮しちゃってさ、俺悲しいなー」



そう聞き覚えのある声が終わったのと同時に森下はナイフを落として地面に倒れた



「名前!」


宜野座監視官に続いて全員が駆け出す



「しっかりしろ名前!名前!」

「救急隊を呼んでくれ!」

「はい、すぐに!」


狡噛監視官の命令に従いデバイスで要請を出す


「おい!誰も俺の活躍を褒めてくれないわけ!?」

「うるさい!どけ!佐々山!」

「ギノ先生酷すぎだろ!愛しの名前ちゃんのピンチを救ってあげたのに!」








佐々山は誰にも気付かれずに森下の背後から近づき、パラライザーを撃ち込んだ

非番だったところを志恩に捕まって、事情を聞いて、局長から特別外出許可が出たらしい














毛布に包まれた名字さんは、苦しそうな表情で救急隊に運ばれていった




「佐々山、ありがとな!執行官達は護送車で局に戻って宿舎に帰ってくれていい!」


そう言いながら狡噛監視官は、宜野座監視官と共に名字さんを追って行った





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