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今日も同じように裏で事務作業をする
京子さん含め皆表で接客してる中、一人パソコンの前でキーボードを鳴らす

そんな女の子達が最近妙に痩せた気がする
クマがすごい子もいて、特に"彼氏がユメリアを作ってる"と言った子はこの数日で見る見るうちに変わっていった
"私殺される、彼氏も殺された"と顔を真っ青にして言い出して、その怯え具合の異常さに京子さんも接客を禁止して帰らせた

その子から貰ったサプリは私はまだ飲んでいない
私の精神は薬で改善出来る物じゃないって分かってるから

....でももう1年半
1日たりとも忘れた事がない
でもどう考えても八方塞がりな感情に毎日少しずつ押し潰されて、"もう無理"と全てを終わらせようとするタイミングでいつも仕事の時間が来る
もはや仕事が私の命を繋ぎ止めてる現状で、深く闇に潜り込めないこの時間が私には有り難かった

仕事をしてる間だけは普段通りに戻れて、一人で部屋に戻った瞬間から堕ちて行く


....狡噛さんは"さよなら"ってどこへ行ったんだろう
もう私の事なんか忘れて新しい道を歩んでるのかな
殺人犯となってしまった狡噛さんは、何も変わっていなかった
それどころか、あんなに望んだ元の優しい狡噛さんに戻っていたのに、私は聞かされた絶望に何も見えなくなってその優しさを嘲笑うかのようにあの夜残酷な事をした

大好きだった狡噛さんとの最後を最悪な形で締めくくってしまった私は、同時に大切な存在をも深く傷付ける事に理性の欠片も無かったその時は気付けなくて
ただただ絶対的だった伸兄をあまりにも突然失った事へのショックに犯してしまった大罪

....ダメだ
そんなの言い訳でしかない
きっと伸兄はそれでも全てを黙って許してくれる
けど、その裏に溜め込むであろう感情が分からないわけない
悲しませたくない
傷付けたくない
自分のせいなのに今更自業自得の罪悪感に足掻き続ける日々

もう一度だけわがままを聞いてくれるなら、愛して欲しい

でも叶うはずがない
矯正施設という名の監獄で一生ガラスの向こう側
そうじゃなくても会わせる顔が無いのに

会いたい
会えない
会っちゃいけない
会ったらもう二度と....

目の前にハサミ
あの刃で....いっそ....





....違う、仕事しなきゃ
常守さんに残したメッセージで"元気だから心配しないで"って言ったんだから、ちゃんと元気でいないと

そうやって果てまで振り切ってしまいそうな精神を無理矢理取り戻して、再びパソコンの画面に目の焦点を合わせた時だった



「キャー!」

と甲高い叫び声が表の方から聞こえた






























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「枡口の家族との連絡がつかなくなりました。自宅にも帰っていないようです」


俺達は唐之杜が復元に成功したパソコンから、枡口が自分が作った薬に違法成分が使われている事に気付き、それを告発しようとしていた資料を見つけた

恐らく口封じの為に殺されたのだろう
だが製薬会社は殺しどころか違法薬物すら認めていない状況で、取り調べを拒否している
明らかに怪しいのだが、強制捜査にはまだ踏み込めていない状況だ

そしてさらに交際相手だった女性との写真も多数発見され、撮影場所の背景が全て廃棄区画の物だった為、彼女は枡口が頻繁に出入りしていた歌舞伎町の廃棄区画居住者だと断定した

ここ二日はその女性の捜索をしている最中だった


「....家族にまで徹底的な口封じか」

「それなら交際相手の女性も殺されている可能性が高いかと」

「だが廃棄区画ばかりに時間を割いてるわけにもいかないぞ。違法薬物の方も、鴻田製薬が隠蔽工作に出かねない」

「それに、実は違法だったなんて市民に知られたら大混乱を招きますよ」

「もう既に不眠症や幻覚、幻聴を訴える人が病院に来ているわよ」

「....二手に分かれましょう。東金さんと六合塚さんは私と共に鴻田製薬と違法薬物の捜査を。霜月監視官は宜野座さんと雛河さんを連れて枡口の家族と交際相手を捜索して下さい」


そう指示を下した常守と目が合う
....ついでに名前も探せという事か
それなら監視官は霜月じゃない方が都合が良いが、役所まで絡みそうな薬物側は常守が対処する方がいいだろう


「宜野座執行官、....勝手な行動は絶対にしないで下さい」


案の定嫌そうな顔で釘を刺してきた霜月は、監視官としては何も間違っていない





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