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「私のせいだ....私のせい....私が...殺した....」


窓一つない倉庫のような部屋で、震えながら汚い床に横たわる

なんで
なんでこんな事に
ここはどこ
助けて
怖い
早く







昨夜、店で聞こえた悲鳴に急いで表へ駆け付けると、数名の男性と血溜まりに倒れて動かない女の子
京子さんに帰らされた子だ

一体何が起きているのか全く分からず、立ち尽くしていると、"二人持ち帰ってもいい"と男性のうちの一人が言った

すると


『金は誰が持ってる?』

『....私よ』


本当は私が管理してるのに、代わりに名乗り出たのはオーナーである京子さん

そのまま男性を一人連れて店の奥に入って行った姿に私は震えが止まらなかった
....だって金庫の暗証番号はその時私しか知らなかったから

毎月一度変えるように京子さんに言われていた私は、いつも変えた日の閉店後に新しい暗証番号を教えていた
そして昨夜がたまたま私が暗証番号を変えた日


間も無く聞こえた悲鳴と、手元を赤く染めて帰って来た男性に私は全てを悟った


もう一度"誰がお金を持っているのか"と投げ掛けられた質問に、今度は他の女の子達がすぐに私を指差した

きっと助かりたかったから

その場で暗証番号を言えと刃物で脅された私は、もう完全にパニックに陥っていて、どうしても口を開けなかった

そんな私に早くも痺れを切らしたのか、"5数える毎に一人殺す"と女の子を一人掴み喉元に刃物を当てた男性

男性のカウントダウンの声と、女の子の助けを乞う叫びに私はますます何が何だか分からなくなってしまった


『やめて....もう、やめて....いや...』


そう呟いても聞いてもらえるはずがなく、目の前で一人ずつ1年半一緒に働いて来た女の子達が倒れて行った

ついにただ泣き喚く私だけが残り、地獄絵図のような店内を霞む視界で意味もなく見つめた


結局自分が殺されるとなると急に防衛に走った私は、暗証番号は"1121"だとギリギリで口にした
....今年こそ祝えたらなと、現実になるはずのない願いを込めた暗証番号








そして"持ち帰られた"のが、ヤクザの巣窟のような場所だった
抵抗すらしなくなった私をこの倉庫ような部屋に放り込み、まだ食事や水も与えられていない


「私が...皆を殺した....私が悪い....私の...せいだ....」




元々危険だった上で更に負わされた多大な精神負荷に、私はもう完全に壊れてしまっていた

































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「この女性を見た事ありませんか」


三人で地道な聞き込みを行う中、先輩の方からは行方不明だった枡口の家族がまた同じように東京湾で遺体となって発見された報告が入った

....この事件何なのよ
こんなに明らかな犯罪なのに、未だに容疑者も分からないなんて

しかも、先輩もこっちに宜野座さんを回したのわざとでしょ
歌舞伎町の廃棄区画なんて、思いっきり元妻の目撃証言があった場所じゃない
さすがに職務が疎かになる

....と思っていたら、ちゃんと真面目に聞き込みしてるし
本当に仕事に関してはどこまでも隙が無い


それと、先日新しく入って来た雛河執行官
まともに喋らないし、話を聞いてるのかも分からない

....シビュラもなんでこんな奴に適性出したのよ
もっとマシなの居たでしょ


「か、監視官....!」

「なに」

「きゃ、キャバクラ...ではた....

「もっとはっきり喋りなさいよ!」

「キャバクラで!働いてる....そう...です...」


何で注意してもまたすぐ弱くなるのよ


「キャバクラ?どこの?」

「ま、真っ直ぐ行って...左...だそう...です」

「店の名前は聞いたか?」

「えっと....く、クラブ...ルナ....」






雛河の情報通り進むと、そこには確かにクラブルナと言うキャバクラが地下へと続く階段の先に存在した

昼間だしどうせ今は閉まってると思っていたドアを、雛河と私を挟む形で先導していた宜野座さんが引くと、


「え」


予想とは反してすんなり開き思わず声が出た


「....っ!」

「...ちょ、ちょっと早く進ん

「常守に今すぐ連絡しろ!」

「は?」

「早く!」


仕方なく監視官デバイスで先輩に通話を試みる間、私の前に壁のように立ちはだかる背中から店内を覗こうと、私は身長では勝てないのを悟って逆に身を屈めた


『常守です。何かありましたか?』

「....なっ、なんなのこれ....」





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