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突然やって来た先輩は何故か怒りの形相
搬送されていった二人を見送って、先輩は"何があったのか説明して"と私に言い放った
「何って、あの女性に対してエリミネーターが起動した瞬間、宜野座さんが執行の妨害をしました。何度も退くようにと忠告しましたが従わなかったので私がパラライザーを撃っただけです。その後、女性も同様に私が執行しました」
それより不思議なのは、忠告をしていた間、宜野座さんの犯罪係数が徐々に下がっていった点
それと、確かに犯罪係数オーバー320を記録していたはずの女性が、宜野座さんが倒れた後再びその銃口の前に姿を現した時には200すら下回り、雛河が照準を定め直しているうちにまた257まで上がった事
それは私の記憶違いじゃない
記録にしっかりと示されてる
....あんな短時間で犯罪係数が100以上下がるなんて
しかもエリミネーターが適用される300オーバーからの降下
あり得ない
「つまり二人は、他人の安全を脅かすような状況には無かったという事ね?」
「....まさか撃ったのが間違いだったというんですか?シビュラが即座に排除しろと命令した潜在犯ですよ!」
「それでもシビュラは判定を覆した。彼女を生かすべき人間だと判断したのよ」
「....だからって!」
「言ったはずよ、シビュラは絶対じゃない。だからこそその銃を持つあなたが的確な対処を判断するべきで、全てをドミネーターに頼ってはいけない。宜野座さんが居なかったら、彼女はあなたに殺されていたのよ」
「私が宜野座さんに救われたって事ですか?」
「救うべき命を救った。....二人とも霜月さんが撃ったのね?」
「....間違いありません」
「なら二人が目を覚ましたら、必ず謝りなさい」
「....はい?どうして私が!」
「二人は、愛する人が撃たれても黙ってられる程心が広くないからよ」
「え...?」
"愛する人"って....まさか
「私は先に局に戻ります。雛河さん、」
「は、はい...!」
「霜月さんとここの後処理をお願いします」
あれが、元妻....?
....だからあの時、自分がこれから撃たれると言う状況よりも、倒れかかって来た宜野座さんに慌てていたって言うの?
『宜野座執行官!直ちにその女性から離れなさい!』
"犯罪係数オーバー240、刑事課登録執行官、任意執行対象です"
『これは命令です!従わない場合は執行します!』
『ドミネーターは必要無い!俺が落ち着かせて保護する!』
『な、何馬鹿なこと言ってるんですか!早く退いて下さい!』
"犯罪係数オーバー220、刑事課登録執行官、任意執行対象です"
『最後の警告です、これ以上執行の妨害行為を続ける場合は、問題行動と見做しあなたを執行します』
それでも私に返事もせず、ひたすら女性に何かを語りかけている背中
時々聞こえて来たのは女性の物と思われる嗚咽混じりの泣き声
そして監視官の命令を無視し続ける執行官は、ついに離れるどころか執行対象である潜在犯を抱き締め込むというとんでもない行動に出た為、私は問答無用で引き金を引いた
その身体を重そうに受け止めるように後ろに仰反った女性は、まるで私と雛河が見えていないかのように
『いや....なんで....嘘....嫌だ』
と放心した様子で無力化された執行官に繰り返し呟いていた
"犯罪係数189、執行対象です"
...は?189?
さっきは324だったじゃない
『雛河執行官!撃ちなさい!』
『わ、わかりま...した』
"犯罪係数205"
....上がり始めた?
『早くしなさい!何やってるの!』
"犯罪係数234"
信じられない速さで上昇して行く数値と、倒れた執行官の身体を揺すり続ける対象
もたもたする雛河を横に苛立ちを募らせた私は、仕方なく女性も執行した
それからしばらく搬送作業が始まるのを待っていると、息を切らしながら現れたのが先輩だった
再会出来た喜びに、二人とも数値が著しく改善したって言うの?
そして元夫が目の前で撃たれたからそのショックに数値が悪化したの?
....そんな事あるわけないでしょ
何もかもが異常過ぎる
1年半も経ってまだ潜在犯に落ちた人間に感情を持ってるとか
緊急セラピーでも難しい速さでのサイコパスの改善
あの間に宜野座さんが何か薬でも飲ませたわけ?
....こんなの報告書にどう書けばいいのよ