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「宜野座さん、公安局の方からお預かりした物です。こちらから入れておきますね」


....やっぱり帰っちゃったんだ
なんてわがままにも程があるような思考をしてしまう
私が拒否をしても、無理矢理会いに来るかななんて思った自分が嫌になる

頭に浮かぶのは常守さんと並んで去って行く背中ばかり
二人の身長差故に、一方が見上げて一方が顎を引く

....違う、そこは私の場所
やめて、奪わないで
伸兄も私を置いて行かないでよ....



....何言ってるんだろ
まだ1週間も経ってないのに
あんな何気ない言葉に過敏に反応して、本当は会いたくてしょうがないのに避けて
私を見捨てるはずがないと分かっていながら、常守さんを妬む
....伸兄じゃなかったらとっくに"面倒な女だ"って捨てられてたかも

そうやってまた、私の好きなように独り占めさせてくれる愛に縋る


「今回はちゃんとご飯食べて下さいね」


そう消えていったのは多分看護師さん
"お腹空いた"って言って退室したのに、食欲が湧かずもう丸一日何も食べていない
今朝食事が運ばれて何も食べずに回収された際には、"サプリも飲まないし、このままならあなたの健康面の対処として強制的に治療をさせて貰うわ"と医師に言われた

....注射かな
針は昔から苦手だ
厚生省に義務付けられているワクチンは何種類かあって、お母さんに伸兄と連れて行かれた物や、私と同じ制服を着た伸兄が保護者として付き添った物
そのどれでも私は、必ず誰かに抱き締め込まれるようにして視界を塞がれないとダメだった

あの時はそれどころでもなかったけど、今思えば常守さんにカウンセラーに連れて行ってもらった時、私にとってはとどめを刺されるところだった


ここじゃ誰も助けてくれない
本当に注射だったらと考えると恐ろしくて、花束と一緒に運ばれて来た夕食のトレーに手を伸ばした


魅力も味気もない
公安局の食堂と同じオートサーバーを使ってると思うけど、場所のせいか所謂"病院食"のような気がする

いや、一昨日までは普通に美味しかった
....精神って味覚まで左右するのかな

一口食べて箸を置く
花、早めに花瓶に挿してあげなきゃ
根元を束ねるラッピングを丁寧に解いて茎を持つ
今までとは一風変わって鮮やかな黄色が眩しいくらいのひまわり
....前にも貰った事あったような

それを手に立ち上がると、カサッと何か落ちた音
ひまわりを視界から退けて足元を覗く


「....紙?」


手紙やメッセージカードというより、メモだった
膝を曲げてしゃがみ、それに手を伸ばして拾い上げる

そこには見た事のある手書きの字で
"花言葉は、あなただけを見つめる"






....それは、

ずるいよ































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「....ちょっと、本気なの?宜野座君」

「これ以外に方法があるなら教えてくれ」

「....それでも、あなただけは絶対に許可しないと思ってたわ」

「....仕方ない。こんなに早くとは思っていなかったが、もともと半年後にはこうするつもりだった」

「もしかして、宜野座さんは分かってたんですか?」

「....あぁ、名前にとってはとんだ皮肉だがな」

「で、でも、大丈夫ですか....?名前さんは色相が濁りやすい体質でしたよね?」

「宜野座君以前に、シビュラが大丈夫だって言ってるようなものよ、これは」

「....確かにそうですね」

「それに最悪の場合、ここに夫という名の名前ちゃん専用万能緊急セラピーがある」

「勝手に変な名前を付けるな」

「実際そうじゃない。300オーバーの犯罪係数からたった数分で140近く数値を下げただけじゃなくて、薬物依存まで跳ね除けるなんて前代未聞よ」

「....とにかく、青柳、手続きを頼む」

「どれだけ急いでも2週間はかかるわよ。それまでどうするの?あの子、可愛い嫉妬に駆られてご飯も食べれてないんでしょ?」

「....わ、私が面会に同伴するのはもうやめた方がいいんでしょうか....」

「....今の名前なら誰が行っても結果は同じだ。常守個人の責任じゃない」

「三係の男性監視官に私からお願いしましょうか....?」

「....いや....」

「....ダメですか?」

「....それだと今度は自分が嫉妬しちゃうって言いたいのよ、この男は。全く、先行きが不安だわ....」

「た、確かに、本当に二係でいいんですか....?人数上それが最適なのは分かりますが、男性ばかりですよ」

「....仕事が出来なくなるよりはいい。それに、何かあれば青柳がいる」

「私を子守に使う気?」

「信用しているという意味だ」





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