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「えー、宜野座名前さんですね。今日も公安局の方が面会にいらしていますよ」


布団の中でシワになる程ジャケットを抱き締めながら背中で聞いたその呼び掛け
あれからさらに2日間意地を張って今日は3日目
やっぱり贈られ続けて来る花には、手書きのメッセージが添えられていた

一昨日は
"少し前に仕事から戻ったら、ダイムがずっとお前の靴を抱いて離さなかったんだ。俺が無理に取り上げようと引っ張ったせいで壊してしまった。唐之杜にも協力を煽って同じ物を探したんだが、もう売ってないらしい。代わりにあのドレスに合いそうなものを買ったよ。辛いのは分かるが無理はするな。心配だ、愛している"

そして昨日は、白をメインとした花々とそれを際立たせる緑が綺麗なイラストと共に
"一人だった1年半の間にデザインしてみたんだ。和装にも似合うようにとイメージした。ドレスもそうだが白無垢も本当に綺麗だった。また見れる日を楽しみにしている"

....伸兄は私が社会復帰出来ると思ってるの?
そんなのあり得ないのに
どうしてこんな希望なんか....




会いたい

顔を見たい

出来る事なら触れたい



「....会いたくないです」



でも会ったら苦しくなる
また自分の感情を隠しきれずに、常守さんにまで迷惑をかけてしまう
....常守さんのおかげで執行官になった伸兄に会えてるって言うのに

徐に左手を出して指輪を見つめてみる
それは驚く程に輝いていて、初めてこの指に触れた瞬間から変わってない

私の色相はもうクリアさの欠片も無い
人事課で仕事して、退勤したら一緒に帰って、ダイムに出迎えられて、二人でテレビを見たり
そんなクリアな日々はど


「相変わらず嘘が下手だな」



「....え...?」


その言葉に全身の動きが止まる
なんで?
....なんでここに


「名前、顔を見せてくれ。会いたいと思ってるいのはお前だけじゃないんだ」


そんな....
そんな事言われたら

優しい声に心が溶けていくような


「....伸兄...」

「....全く、食事はしっかり取れといつも言って来ただろ。一緒に食べよう」


ガラス戸の向こう側
私に用意された物と同じトレーを手にした姿


「面会室で待っているからすぐに来い、いいな?」


私はゆっくりベッドから抜け出して、和の定食が乗せられたトレーを両手で持ち上げた

それを確認してから去って行った横顔

....一人?
















「....常守さんは...?」


恐る恐る入った面会室
確かに伸兄しかいない


「俺はお前に会いに来た、二人だけの時間だ」

「でも執行官は監視官の同伴が無いと....」

「この場所自体が監視官のようなものだろ」

「....大丈夫なの?常守さんが処罰を受けるんじゃ....」

「それよりも俺はお前の方が心配だ。....明らかに痩せた」

「....だ、ダイエットだよ....」

「ドレスを台無しにする気か?」

「....それは....」


もう着る事もない
装飾品のようにあの部屋に飾り続けるだけ

そんな私の思いを察したように


「....言ったはずだ、俺を信じろ」

「いつまで....?一生ここから黙って見えない未来を待つの?」

「....2週間」

「え...?」


2週間?


「これから毎日しっかり健康に過ごし、ここで俺と会う事を約束出来るか?」

「....どういう事?」

「2週間それをお前が達成出来たら、俺達の願いを叶えよう」

「願い...って?」

「こう見えて俺だって限界だ。こんなガラス越しで苦しそうにするお前を見ていられない。出来るなら今すぐにでも触れたい。違うか?」


....違うわけない
目の前に伸びて来た茶色い手袋の掌に、自らの左手をそっと重ねる
私よりも長い指がはみ出て、そのまま握って欲しいのに見えない壁に阻まれる


「写真も今度こそ撮りに行こう。アイススケートも焼肉もプラネタリウムも、少しずつでもお前との時間を取り戻したい」

「....でも....」

「言いたい事は分かる。....だが心配するな、もう二度とお前を裏切ったりしない」





























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"誰が行っても同じだ"と言った宜野座さんは、"二人きりにして欲しい"とお願いして来た

同時に施設の方からも、
"夜のココアは飲むが、食事は一口しか手を付けない。サイコパスも160を超え、サプリを与えても飲まない。このままでは強制治療に踏み込む"と報告があり、私が監視官である事と宜野座さんが夫である事から、特別に名前さんが収監されている部屋までの立ち入りを許可された


「これ伸兄が迷子になった時だよ!」

「違う!迷子になっていたのはお前だ!」

「いや絶対そう、お母さんと伸兄探し回った記憶あるもん」


....本当にすごい
リアルタイムでモニターされている名前さんのサイコパスが、もう犯罪係数120まで下がり、色相も2段階改善されている

同じ面会室の中、名前さんからは死角になる位置で二人を見守る

ちゃんとトレー内の物も完食し、今では宜野座さんが持って来たアルバムを共に鑑賞している








現在青柳さんが代表して進めている手続き
配属予定日は丁度2週間後の11月1日


....狡噛さん、監視官になりたかった名前さんに執行官適性が下りましたよ

びっくりですよね


ドミネーターの研修と射撃訓練の付き添いには、青柳さんと共に宜野座さんが自ら買って出ました。
トップの成績で監視官になった狡噛さんも、それだけは宜野座さんに勝てなかったそうですね


大丈夫ですよ

私も宜野座さんも青柳さんも付いてるんです
宜野座さんは"元"ですけど、実質監視官が3人もバックアップしてるんですから
次会った時は、もしかしたら名前さんの方が狡噛さんより優秀な執行官になってるかもしれませんよ





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