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「本日も奥様の面会に?」

「あぁ、妻を一人にはさせられないからな」

「以前の仲違いは解消されたんですか?」

「つい昨日何とかな。悪いが急いでいるんだ、失礼させてもらう」


そう毎日懲りもせず花束を抱えて先輩と足立区の矯正センターへ向かう宜野座さん

少し前に再婚を遂げた時には、先輩や弥生さんも含め刑事課の中でも旧一係と馴染みがあった人達で小さなお祝いをしていた
私も誘われたけど行けるわけない

あれ以来特に何も言って来ない宜野座さんは、先輩の忠告とは裏腹に怒っているというより普段通り
仕事はきっちりこなし、私とも平然と業務上の会話はする

弥生さんから聞いた二人の話
お互いに親を失ってずっと一緒に生きて来た
予想外過ぎた真実に、勝手に抱いていたイメージがどんどん変わって行く
弥生さんによると知る限り彼女はいた事無かったらしいし、一途だとは思っていたけどここまでだなんて....

まるで隙が無い


一方で妻の方に関しても、未だにあの時の犯罪係数の急激な変化については納得行っていない
先輩が上げた報告書を見たけど、"一時的な混乱に陥っていた"とだけ

私達が今まで執行して来た人間も大体皆混乱してた
当たり前だ、犯罪係数上昇の結果銃口を向けられてるんだから

でもシビュラシステムをあそこまで翻弄させる事は無い
カウンセラーのセラピストにも聞いてみたけど、"私の経験ではそういった前例は無い"と言われた

それに、彼女は一番最初にエリミネーターを向けられた一瞬以外は、一度もドミネーターを見ていなかった
....なんなのよ
"それがあの二人の相性"って
シビュラという絶対的なシステムの前で、そんな曖昧な理論が通るって言うの?


「霜月監視官、そろそろいいですか?」


そう声をかけて来たのは東金執行官


「....分かってるわよ」


共にオフィスを出て私が消灯した













「どこに行きたいんですか」

「足立区立サイコパス矯正医療センターへお願いしたい」

「は....?」


矯正センター?































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「....もう帰るの?」

「面会時間には限りがある、我慢するしか無い」


貰ったチューリップの花束を見つめながら駄々を捏ねる
困らせちゃうだけだって分かってるけど止められない


「....寂しいよ。毎日30分しか会えなくてそれ以外はあの部屋でずっと一人きり。一緒に映画とか見たい」

「無理を言うな、いくら何でも2時間は無理だ」


確かに、今こうして監視官が同伴してないのも常守さんが何か対応をしているのかもしれない
それに加えて"監視官権限で面会時間を延長出来ないか"なんて図々しいにも程がある


「....あと2週間耐えればいくらでも側に居られる。それを糧に頑張れないか?」

「....頑張れないって言ったら?」

「はぁ....」


そう溜息を吐いて額に手を当てた伸兄の指輪が部屋の明かりを反射する

....今更だけどそれを見て口元が緩んでしまう
素直に嬉しい
私にどうしてもと強請られて買った物を、1年半離れていた間も外さずに居てくれた

やっぱりダメだよね
伸兄がどうにか出来る事じゃない


「ごめん、わがまま言い過

「何の映画が見たい?」

「え....?いいの!?」

「45分で数日に分けて見よう」

「ほ、本当に?」

「あぁ、だから何が見たいのか今早く決めろ。あと3分もない」












結局3分で決められるはずも無く、どうせ2週間あるんだから明日の面会までに決めて明後日から見ることにした

その代わり明日はダイムのタキシードを選ぼうと約束をして
ウェディングフォトにダイムも連れて行きたいと言ったのは私
それを伸兄は当然のように了承してくれた


「夕食をお持ちしました」

「ありがとうございます」


いい匂い
今日はカレーなんだ

スプーンを手に取って、口へ運ぶ

うん、美味しい
....やっぱり昨日までの私はおかしかったんだ
昔からそうだけど、伸兄も相変わらず私の欲するものがよく分かる

その"言わなくても伝わってる"事に今までどれ程救われたか
....逆に隠し事があまりできないのが難点だけど


そういえば高校時代に一度課題をすっかり忘れた事があった
期限前日の寝る前に気付いて、伸兄が手伝ってくれれば何とかなるかなと思ったけど、その前に忘れてた事を怒られると思って潔く諦めて寝た
なのに次の日の朝、朝食を食べてた時に"何をそんなにそわそわしている"と聞かれ、"そんな事ない"と否定しても逃してくれなかった
案の定怒鳴る勢いで怒られ、私は朝から不機嫌になり早めに家を出て学校へ向かった
....結局先生に1日だけ猶予を貰って帰って来た私を伸兄は深夜まで手伝ってくれた

本当によく怒られて、今思えばどうでもいい事で何回も喧嘩したな....

そんな懐かしい思い出に浸っていると、



「ちょっと!こんな事誰かにバレたら!」


と急に聞こえた女性の声


人の気配を感じて廊下側を見ると、見覚えのある人物が二人

....確か一係オフィスで....





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