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「ダイムもやっぱりシンプルに黒と白がいいかなって思うんだけど」

「俺達の結婚記念で、俺は飼い犬とお揃いなのか?」

「いいじゃん!ダイムカッコいいからきっと良く似合うよ」


伸兄に告げられた2週間という期限
実際2週間後に何が起こるのかは私はまだ理解出来ていない

特別に外出出来るとか...?
でもそれじゃ"いくらでも側に居れる"わけじゃない
かと言って社会復帰も現実味が無い
施設に入って半月くらいだけど、本当は1年半以上潜在犯だったと思うから
それが急に犯罪係数100以下まで改善するのはもう難しいって域じゃない

なりたくてもなれなくて、それでも身近な存在だった監視官への微妙な知識が逆に私に夢を持たせない
もし私が刑事課に何の繋がりも無かったら、ほぼ不可能に近い社会復帰に希望を抱いていたかもしれない


「....そういえばさ、一係に癖っ毛っぽい男のひ

「名前、すまないが今日はここまでだ」

「え?何で?まだ15分しか

「事件が起きたんだ、一係に出動命令がかかった」

「....そ、そっか...仕事じゃ...仕方ないね」


仕事と私どっちが大事なの?
と馬鹿みたいな事を吐いてしまいそうになる心
....刑事だもん、この街の安全を守ってる
そういう意味では私だけの存在じゃない
ただ今日は45分あると思って...それがたったの15分


「....その代わり明日は早めに来る。だからそんな顔をするな」

「....うん」

「....名前、忘れるな、考える事は同じだ。もう少し頑張ってくれ」

「分かってるよ....私は大丈夫だから心配しないで」

「はぁ....愛している」


確かに前より広くなった背中をガラス越しに見送る

結局昨日の夜見た二人の事を聞けなかった
話しかけられたわけでもなんでもなく特に何も無かったけど、事件の捜査か何かだったのかな

....部屋に帰ろう































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『皆さん、ルートを変更します。爆発の現場ではなく喜汰沢が働く解体請負業者の倉庫へ向かいます』


護送車の中にいる俺達執行官に向けられた常守からの伝達
この頃何件か続いている爆発事件の容疑者らしい


....全く、最後に見た名前の悲しそうな表情が頭から離れない
互いに仕方ないと分かっているはずだが....確かに15分は短過ぎた

側に居た常守にも"すみません"と謝られ、誰のせいでもない苛立ちをただ息を吐いて逃した


「もしや奥様と面会中でしたか」

「あぁ、今日は45分共に居ると約束したんだがな。妻には申し訳ない事をした」

「あなたは本当に愛妻家だ」

「当然の事をしているだけだ」

「名前さん、元気ですか?」


そう言う六合塚を当時あの施設へ迎えに行ったのは俺だ
....もう遠い過去のような気がするな


「元気ではあるが、かなり無理をさせてしまっているだろうな。全員分かるだろうが、あそこでの生活は心地の良い物じゃない」

「奥様の色相、かなり安定されているようで退院も夢ではないのでは?」

「いや、妻はもうあれ以上は良くならない」


それは執行官適性を出したシビュラが証明している
名前のサイコパスは二度とクリアにならない、と


「仮に退院出来たとしても、妻は一人で生きて行くことになる。....俺が甘やかし過ぎたせいだが、あいつは一人じゃ何も出来ない」

「確かに奥様には子供のような一面もある、これまでよく面倒を見てこられたんですか?」

「そうだな。....そんなに妻の事が気になるか?」

「いえ、宜野座執行官はこれから共に戦う仲間。そのあなたが常に気にしているのが奥様ですから、あなたを知るには奥様への理解も必要不可欠かと」

「その必要は無い、仕事は仕事だ。俺も公私混同するつもりは無い」


と口では言うものの、名前の事で散々常守や青柳に迷惑をかけて来た
面会時間の延長に関しても、側で見ていた常守がメッセージで"45分までなら私が何とかします"と送って来た

....全てが落ち着いたら名前も連れてしっかり礼を言おう


『到着しました、降車の準備をお願いします』



....そういえば、東金執行官は何故名前の色相が安定していると知っていた?
常守が教えたのか?





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