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「色相をクリアに保ったまま爆弾を作った方法を明らかにする必要がある。今後の為にもそう判断しただけよ」


そう言って立ち去っていった後ろ姿に、執行官達も続く

先輩...あなたは


「....間違っています」


半月前の宜野座さんの妻に関してもそうだったけど、執行対象の犯罪係数が下がるなんて普通はあり得ない事なのに
....それでも今回の対象は、数分で140も下がるなんて馬鹿げた事は無かったけど....

シビュラは対象を"排除しろ"と命令した
この社会から消し去るべき存在だと
....なのに先輩は....


「霜月監視官」

「っ!」


昨日、東金執行官に付き添った外出先は足立区の矯正センター
ただ中へ突き進んでいった様子に慌てた私は止めようと追い掛けたけど、足を止めたのはあろう事か宜野座さんの妻の部屋の前
あの時オフィスで見たよりも落ち着いた雰囲気に本当に同一人物なのかと疑問を持ったけど、そんな私の横でサイコパスの記録を閲覧し始めた東金は、しばらくして"実に興味深い"と呟いて立ち去った

帰り際職員に見つかった私は、変な責任を負いたくない一心で刑事手帳と共に"事件の捜査で伺いました"と切り抜けた

....なんなの
どういう事?
どうしてあの人のサイコパスなんかを
....まさか気があるの?


「早く行きましょう、皆待っている」

「分かってるわよ....」










「二係の酒々井監視官が、山門屋執行官を執行処分した記録が本部に届きました。その酒々井監視官との連絡もついていないので、私達一係で現場に向かいます」


助手席に乗り込んですぐに発車した車の中
運転する先輩がそう私に情報伝達をした

....正直、今日も面会に付き添いに行った先輩からはもしかして昨日の事を何か聞かれるんじゃないかと思ってた
でも今の所何も言われていない

良かった....
バレたら私が処罰を受けるに決まってるんだから

と思ってた時に、


「霜月さん、あなたも監視官だし伝えておこうと思うんだけど」

「....な、なんですか?」


嘘、バレてる....?
緊張して手が震える
でもあれは私のせいじゃない
東金執行官が勝手な行動を


「名前さん、宜野座名前さんね。来月の頭から二係の執行官として配属される事になりました」

「え...?え!?執行官ですか!?」

「シビュラが適性を下したの。他係だからあまり多く関わる事は無いかもしれないけど、一応知っておいて損は無いから」

「....宜野座さんは...」


と言いかけて気付く
夫婦なんだから当たり前だけど、同じ苗字の執行官が二人
....全くややこしい


「現一係所属の宜野座伸元執行官はそれを知ってるんですか?」

「えぇ、元は宜野座さんの提案よ。それと大丈夫よ、私達も"宜野座さん"と"名前さん"で慣れてるから」

「....そ、そうですか....」


夫婦揃って執行官だなんて
....聞いた事ないわよ
同じ一係じゃないのはそういう配慮?


「....大丈夫なんですか?自分の夫、妻が職場にいて、仕事を疎かにしたらどうするんですか」

「それは無いと思う。宜野座さんは元々誰よりもその辺は厳しい人だし、名前さんも人事課の職員だった頃は優秀な勤務態度だと評価されていた。....ちょっと宜野座さんに甘える事はあるけど、二人とも仕事はちゃんとこなす性格だから。着きました、執行官の皆さんを護送車から降ろしてあげて下さい」




























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「ココア、置いておきますね」


本当にちゃんと毎晩欠かさず届けられるホットココア

わざわざ聞かなくても分かる
きっと伸兄が手配をお願いしてくれた

依然として寂しさは強く感じるけど、その甘い香りのおかげで夜も問題無く眠れるようになった

マグカップを手に布団の中に下半身を入れる
太腿の上には先日伸兄が置いてったアルバム
前にお父さんから結婚祝いにもらったワインを飲みながら、二人で途中まで振り返った思い出達

....あのワイン、そういえば一口だけ飲んで伸兄に取り上げられたんだっけ
自分は次の日も仕事だから"酔われたら困る"って

そうやって思い出せば思い出す程、その時の感覚が蘇って来る
後ろから抱き締められて感じていた温もりを、今は肩に羽織ったジャケットで....はやっぱり無理があるかな


「熱っ....」


まだまだ飲むには早いココアで手を温めながら、アルバムのページをめくる


....伸兄の小学校入学式の時だ
黒い真新しいランドセルを背負った幼いその笑顔の隣で、私がピースサインをして笑ってる


「....かわいい」


それを挟むお父さんとお母さんも本当に嬉しそう
次の写真では、同じ場面でお父さんに抱き上げられた伸兄に向かって両手を伸ばす私
....同じように抱っこして欲しかったのかな

やっぱり
今度は片手に一人ずつ子供を抱えたお父さんの姿

....もうちょっと待ってて、あと2週間したらお墓参り行くからね





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