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「....はぁ」


青柳達が搬送していたはずの喜汰沢が逃亡し、クリアだったサイコパスも300オーバーをマークして執行された

そして常守の自宅で"WC?"の文字が見つかったらしい
その調査はとりあえず明日に持ち越される事になった

規定値以下まで犯罪係数が下がったのも驚きだが、その最中に逃亡を図り再びサイコパスを悪化させたという喜汰沢
せっかく休めと言ったのに、それと発見された部屋の文字で結局仕事に戻る事になった常守
同時に俺も名前に会いに行けなかった


「ダイム....今日は一緒に寝るか」


寂しさを感じるのは名前だけじゃない
俺も映画を見るのを楽しみにしていた
....正直なところ、面会を目標にして仕事をしている部分がある
結局常守に頼んで施設に通話をかけてもらった
荒れた一日だったというのもあるが、矯正センターに行けなかった今日は一段と憂鬱な夜だ

あと2週間で名前は執行官になる
危険な事はさせたくないが、もうこれ以外に一緒に居られる道も無い
何よりあんな場所に一人で居させるより、ここでこれまでと同じように一緒に暮らしたい
俺にも、ダイムにも、この部屋に溢れる持ち主の帰りを待ち続けている私物達にも、名前の存在が必要だ


シャワーを済ませた俺は簡単に義手の手入れをしてから、ダイムを連れて寝室に向かった


先日、俺が監視官になった頃からスーツの製作を依頼している店に、もう2着名前のスーツを依然と全く同じデザインでオーダーした
購入申請を出した常守には"随分高級ブランドのスーツ着てるんですね"と少し....引かれていたような
確かに値段は張るが長く着る物だ
しっかりした作りの方がいい


ベッドの上、いつも中央では眠れない俺は半分空けている
そしてそれが誰の為なのか分かっているのか、ダイムも俺の足元の方で伏せた


「....写真撮影の時はちゃんと笑ってくれよ」


名前の提案でダイムも連れていく事にした写真撮影
だが実際どうしてももう一人、監視官が着いて来る事になる
それが常守か霜月か、青柳かもしくは三係監視官か誰になるかは分からないが、仕方ないとは言え職場の人に見られるのは多少の抵抗がある
常守か青柳辺りなら外で待ってもらう事を提案できるんだが....

見られたくないという恥ずかしさと、見せたくないという意地

....いつも名前をわがままだと言って来たが、俺も大して変わらないな




二係は大丈夫だろうか
執行官を一人失い、それを撃った酒々井監視官が行方不明
だがGPSは追えているらしく、その行動全てが違法性も無いとシビュラに容認されている
ドミネーターも紛失した事になっているが、これから名前が配属される係だ
....もちろん心配する

ドミネーターの扱いだけはきっちり教え込むつもりだが、後は青柳と他の執行官との付き合い次第だ
今いるのは確か、蓮池、須郷、それから波多野か
俺はあまり話したことが無いが、青柳によるといい奴ららしい
....何かあれば青柳がフォローしてくれるはずだ




「ダイム」


俺はデバイスの画面を起動して、自分のすぐ隣を軽く数回叩いた
大人しく横にくっついて来たダイムに、開いた犬用のタキシードの画面を見せる


「名前が選んだ物だ。どうだ、着れるか?」


そう聞くと俺の右手を舐めて来たのは了承の意だろう
結局ダイムにはボウタイのスタンダードなタキシード
俺は前と同じく細身なシルエットでノーマルタイ、基本的にはサイズを変えただけだ
ダイムの方がタキシードとして正解に近く、もはや誰が新郎なのかと思うような選択だが、そこが名前らしいのかもしれない

それから名前には見せていないがブーケも決めた
白や緑を基調としたリース型のデザインと、ブーケでは無いが花冠も

これら全てを常守を通して購入している為、一応"名前には言わないでくれ"と協力を仰いでおいた


まだ具体的な撮影日は決まっていない
監視官の勤務状況によっては、もしかしたらまた何ヶ月も待つ事になるかもしれない
それでも今度は必ず



「....そうか、お前はまだ見た事がないのか。....本当に綺麗だよ、お前も見惚れるかもしれないな」





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