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「約束したからな」



名前は何を思ってこんな要求をしたのだろう
俺は全く構わないが、好きな人がいるんじゃなかったのか
もしかして俺をその男の代わりにしているのか

そうだとしても俺には関係無い
関係無いだろ



腕の中の、華奢な身体からは、親友の男と同じ匂いがして何故か嫌気が差した
二人は一緒に住んでいるのだから当然な上、知り合って2年以上経つのに初めて抱いた感情に自分自身も戸惑う










ふと痛々しい傷を隠しているであろう首元の白い布が気になってそっと指をかける




「い、痛かったか?」

ビクッと震えた肩に慌てて名前を引き離す
だがやや紅潮した名前から返って来たのは全く別の話だった

「....狡噛さん、見ましたよね...?」

「....見たって、何を?」

「そ、その....私あの時....し、下.....」

「下?あっ、おい!」

「こっち見ないでください!出て行ってください!」


突然枕で叩かれる状況が全く飲み込めない


「わ、分かった!分かったから!」















そう素早く退室するが、俺が何か気に触る事をしてしまったのだろうか
首の傷がそんなにも痛かったのだろうか
....いや何かを見ていたと言っていたな
下....


「狡噛」
「ギ、ギノ?」


どうしたと聞きそうになったのを、眼鏡の奥の鋭い視線に阻まれる



「前に言った事を忘れていないだろうな」

「何の話だ」

「.......いやいい、報告書にサインしてくれ」


血は繋がってないが、兄妹揃って何なんだ
言いかけて言わない
長く一緒にいると似て来るというのは本当なのか


「これでいいか?ってギノ?」


データを転送し返すとギノは何も言わずに去ってしまった
明らかに不機嫌だったが何があったんだ
オフィスで話した時はいつも通りだったと思ったんだが...









































「おう、狡噛じゃねーか!朝からどうした」

「昨日の事で礼を言っときたくてな」

「全く、律儀な監視官だな。チャイムなんて押さなくても監視官権限で入ればいいものを」

「それでも一個人のプライバシー空間だ。勝手に入るわけには行かない」

「相変わらずだねぇー、まぁ座れよ。飲む?」

「朝からなんてごめんだ、遠慮しておく。水貰えるか」


佐々山のおかげで本当に助かった
あの時の俺はパニックしかけていた


「名前ちゃんどう?」

「安定してる、傷もそこまで深くなく、跡も残らないそうだ。」

「色相の方は?かなり危なかったって聞いたけど?」

「あぁ、お前が対象を撃った時名前の犯罪係数は99だった。もう少しで手遅れになるところだった、感謝してる」

「じゃ今度名前ちゃんのお尻触っていい?俺命の恩人だし?」



その言葉に水を飲もうとした手が止まる



「じょ、冗談だよ...そんな分かりやすく怒んなよ....」


怒る?


「別に怒ってない。名前に限らず誰に対してもやめろ」

「....狡噛お前、大分いばらな道選んだな....宜野座が黙ってないだろ」

「は?何の話だ」


今日は他人の話が理解できない事が多いな
疲れか?


「あー自分で気付いてないパターンか。まぁ俺は応援してるぜ、何かあったら相談乗ってやるよ」

「勝手に話を進めるな!」

「相談には乗れるけど、あまり助けてはやれないかもしれないなー。宜野座のガードが固すぎて」

「だから分かるように説め

「そういえばさ!意外だったよな!俺は名前ちゃんは案外すっごいエロいのとか付けてると予想してたのにさ。あんな保守的だったなんて、まさかあれも宜野座のせいか!?」

「話についていけない」

「だから下着だよ下着!もしあの子も宜野座に素直に従ってあれ着てるんだったら、相当なブラコンだよな」

「あっ....」






そうか、下着か
名前は俺があいつの下着姿を見てしまったのを気にしてたのか

あの時はそれどころじゃ無かったが、改めて思い出すと恥ずかしさと見てしまった罪悪感に駆られる




「おいおい、思い出して欲情すんなよ?」

「お前と一緒にするな」





でもそうか
ギノがいたか
名前に1番近いのはギノだ
死の瀬戸際に立った時に呼んでいたのもギノだった

厳密には兄妹でも無ければ家族でも無い
それ故十分にあり得る上、辻褄が合う

名前が監視官を目指した理由も...



だがギノがそれに応えてる様子もなければ、気付いてる様子もない
いつも心配性で過保護な保護者という感じだ




だがどうしてだか、名前の気持ちを応援してやれそうにない
ギノにその気が無く名前の気持ちが実らないと分かってるからか?





「....大丈夫か?狡噛」

「え?あ、あぁ」





俺はどうしたいんだ





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