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「....なんかすみません....本当に付き合ってくれるなんて....」

「困った時はお互い様だと言っていたのはお前だぞ、常守」


いくら仕事仲間とは言え、既婚の男性とこうして外を出歩くのは何だか変な気持ちがして、義手の上から被せられた手袋と相反した色の指輪に余計目が行く
もちろん何らやましい事は無いけど、名前さんが意外にも快く了承してくれた事に驚いた




恐らくわざと面会の最初にその話題を持ち出した宜野座さんを私はいつものように横で緊張しながら見守っていた

『え!?常守さんとデー

『デートじゃない。外出に同伴するだけだ。お前が嫌なら断る』

『....そういうのは自分から断る物じゃないの?』

『お前がそう言うと思って断ってないんだろ』

『じゃあ聞く意味ある?』

『言わずに隠して行くのは違う』

『分かったよ、いいよ』

と驚く程素直に終わった議題
一緒に映画を見たりしていた面会終了後に宜野座さんに本当に良いのかと聞くと、

『あの時は特殊だった。"自分はもう二度と"と言う思いから極端になっていたんだろう。普段はあそこまで取り乱す名前じゃない。それに、あいつもお前にかなり世話になっているのは分かっている』

本当に疑う事なく信頼し合ってるんだなと、そういう存在がいる事に今度は私が羨ましく感じた






今は私が見たいと言ってやって来たジュエリーのお店
自分が欲しいのもあるけど、佳織の誕生日もこの間祝えなかったし


「....意外だな、お前もこういう類の物に興味があるのか?」

「失礼ですね、私も女ですよ」

「いや、確かにそうなんだが....」


私がショーケースを見て回る隣で、いつもの綺麗なスーツじゃなくて私服姿の宜野座さんも煌く商品達を覗き込んでいる
長身だからこそオシャレに見えるのか、服自体はかなりシンプルでそういう意味ではイメージ通り


「宜野座さんも何か買われるんですか?」

「あぁ、せっかく来て手ぶらで帰るのは悪いと思ってな」


やっぱりどこまでも一切の隙無く名前さんを思ってる
それを見て私もそうやって思ってくれる人がいたらと考えるのと同時に、嬉しくも思う
どうも宜野座さんと名前さんの幸せは、私には心地の良い物
微笑ましいというか、狡噛さんが願ったというのもあるけど、ただ純粋に見ていてこっちまで幸せな気分になる

そんな事を考えながらふと見つけたネックレス
....た、高い....
これは無理かな....でも可愛い、と思っていると聞こえて来たのは


「ありがとうございます」


と紙袋を店員さんから受け取った宜野座さんの声


「....も、もう決めたんですか?」

「名前の好みは分かっているからな」


そう言って少し気恥ずかしそうに笑った表情に、柔らかな愛を感じた


「そっちはどうだ?欲しい物は見つかったか?」

「はい....でもちょっと高くて....」

「監視官ならそれくらいどうって事は無いだろ?」

「そんな簡単に決められませんよ」


値札には10万近い数字が示されている
実際買えない事は全く無い
でもアクセサリーに10万は....他に特に使い道も無いけど勿体無いと感じてしまう
こんな時に"いいよ、買ってあげるよ"なんて言ってくれる人が私に居たらなと妄想する
....それは少なくとも狡噛さんでも宜野座さんでも無い


「この後寄りたい店があるんだがいいか?」

「....分かりました、行きましょう」

「なっ、ちょっと待て。あのネックレスが欲しいんじゃなかったのか?」

「いいんです、私には似合いませんから」


着けて見せる人も居ないし、謙遜する私を否定して"似合ってる"と言ってくれる人も居ない
....強いて言えば家族と佳織くらい




寄りたい店ってどこだろう
きっと私にジュエリーのイメージが宜野座さんには無かったように、私もこうして宜野座さんがショッピングをするイメージが無い
もちろん購入申請等で買い物はするけど、こうやってショッピングモールの中で紙袋を手に歩くのは今初めて見る

何を買うんだろう
花かな?
ダイムの餌とか?



「ここだ」

「....ここは....わ、私が入っても大丈夫ですか...?」

「当たり前だろ、嫌なら構わないが....」


と辿り着いたのは大人な雰囲気が漂うアパレルの某有名高級ブランドのお店
適当な服1着でもさっきのネックレスが買えるかもしれない


「い、いえ....行きましょう」


店内に入るとすぐに店員さんが対応に来て、キョロキョロする私とは裏腹に宜野座さんは落ち着いた様子で"レディースのコートが見たい"と告げた

....もしかしてさっきのジュエリーに引き続き、また名前さんにかな?
なんて正直聞くまでも無い
名前さん以外あり得ないから

店員さんに色々と提案されてる"妻を思う夫"の横で、私も興味本位に目に入ったブラウスを手にとって見た


「ひっ....」


12万円....恐ろしい
この間名前さんの為にオーダーしていたスーツの値段も私が着ているものと一つ桁が違って、間違ってるんじゃないかと宜野座さんに確認を取った程だった


「ではこちら奥様ご試着されますか?」

「え?」


そういきなり差し出されたのは膝丈程のグレーのコート


「あ、すみません。こちらは仕事の同僚で、このコートは今この場にはいない妻への贈り物です」

「た、大変失礼致しました!」


私達に深く頭を下げる店員さんに、名前さんの立場と間違えられた私の方が申し訳ない気持ちになる
そっと宜野座さんを見ると、ただ苦笑いしながら大丈夫だと店員さんに声を掛けていた


「....どうしますか?私名前さんとサイズはほぼ変わらない見たいですし、その確認の為にも試着しましょうか?」

「いや、名前の服のサイズは把握している。こうして俺が買う事も昔からよくあったからな」









結局私の外出に付き添ってもらったはずなのに、宜野座さんは両手に名前さんへのプレゼント、私は手ぶらで公安局に帰る事になった





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