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「どうだったの?常守さんとのデート」

「はぁ....お前はそんなに俺の否定が聞きたいのか」


昨日突然"常守と少し外出をして来てもいいか?"と聞いて来た時はびっくりした
もちろん行って欲しいなんて感情は無い
でも常守さんはそんな人じゃないし、伸兄だってそれこそ浮気なんてあり得ない
....これがもし全然知らない女の人だったら別の話だけど

青柳さんや常守さんなら、私が今まで勝手に色んな感情を抱えた事があるとは言え、かなりお世話になったし信用できる人だって分かってるから
それに何より、私と伸兄の関係はそんなに緩い物じゃない
25年近くありとあらゆる困難やすれ違い、幸福を共にして来た

きっと何か事情があるんだろうと、ダメだと言う理由も無い私は素直に了承した
なんだったらこの1年半、常守さんと外出はある意味ずっとして来たはずだし


「やっぱり若い女の子の方がいいなって思ってない?」


なんてからかう余裕もある私は、それだけ伸兄を果てまで信じ切っている
きっと"そんなわけないだろ"とかって返ってくると思ってたら


「....常守、来てくれ」

「え?」


....どういう事?
ここには私達しか居ないんじゃ

と混乱していると視界の端の壁から見えたショートヘア


「す、すみません....」

「....常、守さん...?」


申し訳なさそうに俯きながら出て来た様子に、何が起きているのかと頑張って思考する
いつからそこに居たの?
....まさか
本当はずっと....
昨日も、一昨日も、その前も....?

でも知らない事は考えても仕方ないと、とりあえず伸兄に視線を向けてみる


「....これまでの事は全て常守の計らいだ。お前を確保した後しばらく共に過ごせた事も、最後護送車を一度開けてくれた事も、こうして"二人きり"になれていた事も、面会時間を45分に延長してくれた事も全て常守が努力をしてくれたおかげだ」

「そ、....そうなの....?」

「そんな大した事じゃ無いですよ!私なんかよりもお二人の方がよっぽど辛かったはずですから....」


"少しでも役に立てたのなら嬉しいです"と笑った常守さんに、今はもう違くても二度も馬鹿みたいな嫉妬心を抱いた事を酷く自責する

前の伸兄の様子から監視官の仕事の大変さは知っているつもりだし、そんな中で毎日面会の同伴をしただけじゃなくて私のわがままの為にも....


「ほ、本当にすみませんでした....私、何も知らずに....」

「謝らないで下さい、それなら笑ってくれた方が私は嬉しいです。宜野座さんからももう、うんざりする程謝罪は聞きましたし」

「....す、すまない....」

「だから宜野座さん....この話はここで終わりにしましょう!いつまでもお二人に謝り続けられるなんて御免ですよ。それより、昨日は外出の許可をしてくれてありがとうございました」

「え、あ、いえ....」

「おかげでいい気分転換になりました」

「....何したんですか?」


いい気分転換って....
もし必要以上に触れ合ってたらさすがに怒るよ
等と不必要と分かってる怒りを準備していると


「買い物に行っただけだ。だが常守、お前は結局何も買わなかっただろ....本当に良かったのか?」

「はい、宜野座さんの名前さんに対する愛情をたっぷり感じられましたから。お二人の愛って周りの人を癒す効果があると思いますよ」


その言葉に思わず伸兄の顔を見る
今度はさっきとは反対の意味で、"何をしたの?何を言ったの?"と聞きたいけど、どこか恥ずかしい
そうやってただ黙って口籠る私を鏡写ししたかのような伸兄の様子に、"そんな恥ずかしい事をしたの?"と考えまた更に恥ずかしくなる


「私が友人へのプレゼントで悩んでいた時も、"名前さんならこれを選ぶ"だとか、もうずっと名前さんの事ばかりだったんですよ」

「....一般的に女性が何を好むのか知らないんだ、あまり助けになってやれなくてすまなかった」


私の印象の中では全てを器用にこなす伸兄だから、こんなに自信無く不器用な様子は目新しい
確かに私から見た伸兄は私の事を全部理解してて、そこにハズレなんて無くて、仕事も完璧で

でも一度その輪から出るとこんなに....

それだけ他の事には興味や注意も向けた事が無いという意味
....なんだかくすぐったい


「....お前にお土産だ、名前」


そう言って受け取り口に何か入れた伸兄につられて、私も取りに向かう

入っていたのは小さな箱で、その上には有名なアクセサリーブランドのロゴ
緊張もしない、ただきっと"私の好きな物が入ってる"という安心の中リボンを解いて蓋を開けると


「....そっちに返していい?」

「....はぁ...全くお前は」

「え、名前さん気に入らなかったんですか?」


伸兄には私の意図が伝わったみたいだけど、常守さんは心配そうに焦った表情


「分かった」


送り返した箱を再び受け取った伸兄はそれをポケットに仕舞った

小さなクローバーを象ったネックレス

どうせなら私が自分でじゃなくて、着けて欲しいから


もうすぐ例の2週間が終わる


....これからどうなるんだろう





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