▼ 262

....空が青い
太陽がある
街に人々がいる

そんな光景が私にはもう懐かしくて

車の中、やっと触れられるようになった手を握って外を見ていた



あれから部屋の中にあった荷物を纏めて伸兄に渡すと、代わりにくれたのは新しいコート
廃棄区間にいた頃も殆ど外に出た事が無かったし、施設では窓も無かったから、11月だとは知ってたけどこんなに肌寒くなってたなんて知らなかった

身に付けてる物が全て新品だからかな
社会人1年目に戻ったような気分

運転席に青柳さんが乗り込むと、それに次いで助手席の扉を開けた伸兄を私は止めた
分かってる、これからは前みたいに仕事以外の時間は一緒に居れるって
それでも近くにいたい
全てを分かち合って結婚したのは後になってからだけど、どんなに喧嘩した日々も含めて25年くらい一緒に居たんだから
それが突然一人で暮らした1年半と、1ヶ月間毎日短い時間しかガラス越しに会えなくて
確かにその間に少しだけそれ以上無い程に触れ合ったけど、圧倒的に足りない時間からの反動は強かった

一緒に後部座席に座って欲しいとお願いして、すぐに右手を取って自分の左手と絡ませた



しばらくして見えて来た公安局ビル
....前は平日毎日伸兄と通ってた
狡噛さんが監視官だった頃は帰り送ってもらったりして
結局私が免許を取る事は無かったな....

狡噛さん、どうしてるんだろう
最悪な別れ方をしてしまった私を恨んでるかな
....正直、また次会えたとしてどんな顔で何を言えば良いのか分からない
ブローチのお礼をすれば良いのかな....って


「そうだ、ブローチ!」

「何だ、突然」

「私が着てたスーツ、私を見つけてくれた時の、どうなったの?」

「あぁ、さすがに汚れ過ぎていたから処分した」

「え....そ、そっか....」

「安心しろ、スーツそのもの以外は残してある」

「着いたわよ、二人とも降りて」


良かったと安心した直後に止まった景色は何度も見た地下駐車場
....またここに戻って来る事になるなんて
少し複雑な思い
でも嫌な感情は無い

なっちゃんとか、同僚だった子達はまだ人事課にいるのかな
課長とか相馬君とか元気かな
私の事覚えてるかな....

繋いでいた手を離して、それぞれ車を降りる

コンクリートに響く足音に一緒に通勤していた時を思いです


エレベーターに乗り込むと押されたのはやっぱり41F
刑事課オフィス
今まで訪れるだけだった場所が、これから私の職場になるんだ

私、刑事になるんだ


「実はね、最近事件で二係は監視官と執行官が一人ずつ欠けててね、ちょっと大変なのよ。配属早々で環境が整ってなくて申し訳ないんだけど、何かあったら皆あなたの味方だから。遠慮せずに頼って大丈夫よ」

「は、はい」

「他の3人の執行官も、ちょっと怖いしれないけど良い人達だから。特に須郷執行官は征陸さんも気に入ってたのよ」

「え?お父さんが?」


でも須郷執行官なんて聞いた事ないけど....
執行官になる前に面識があったのかな


「....国防省のフットスタンプ作戦か、懐かしいな」

「あの時の征陸さん、凄かったのよ?国防軍の統合参謀本部の作戦監視官だったかしら?あなたとあなたの母親で脅しをかけられた時、"執行官の俺が妻子に手を出されたらどうなると思う!これは俺のヤマだ!"って掴みかかって。あれこそ刑事の鏡ね」

「....全く、何かあれば監視官であるお前の責任になると言うのに....親父とは一度くらい杯を交わすべきだったな」


いまいち話はよく分からないけど、静かに微笑んだ伸兄に"良かった"と思える


「....お父さんのお墓参り、いつ行ける?」

「その外出には私が監視官として同行してもいいかしら?」

「あぁ、構わない」


そして開いたエレベーターの扉
....本当に刑事課だ
私、本当に戻って来たんだ


「さすがに案内する必要は無いわね」

「は、はい、大丈夫です」

「じゃあ俺は仕事に戻る。青柳、名前の事を頼んだぞ」

「全く、まるで学校に我が子を送り届けた親ね」

「その気持ちは分からなくも無いな」


そう言って優しく抱き締められて
嬉しいけど離れられなくなる感覚


「お前は今まで俺や狡噛を見て来た。きっと優秀な刑事になれる。次あいつに会った時には射撃で負かして驚かせてやれ」

「....射撃、伸兄が教えてくれるの?」

「あぁ、厳しくいくから覚悟しておけ」

「や、優しくしてよ....私銃なんか握った事無いんだから」

「お前の身の安全に関わる事だ、手を抜くわけにはいかない」

「もう....」

「そういうわけだから、ドミネーターについては宜野座君の当直が終わる午後からね。まずは二係を紹介するわ」





[ Back to contents ]