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「宜しくお願いします」
そう先輩に紹介され、頭を下げた新しく一係に入って来た執行官
酒々井監視官が単独行動から戻らず、その彼女から呼び出しを受けた青柳監視官が強襲型ドミネーターで執行された
それにより二係は実質解体し、一係と三係に分裂する事になった
私達一係には蓮池楓執行官、須郷徹平執行官
そして....
「....隣なのか」
「そんな嫌そうに言わないでよ」
「名前さんはまだまだ新人です。それには元監視官でもある宜野座さんが教育係に最適だと判断しただけですよ」
本来"名前さん"は人数上、波多野紘一執行官と共に三係に配属されるはずだった
それを先輩が上と掛け合って一係に変更したらしい
....席も隣とか贔屓し過ぎ
監視官がここまで執行官に気を遣うなんて、何考えてるの
そんな先輩は昨日、現場に到着し次第怒りの形相だった
....私だってまずいと思った
でもあれはもう三係の事件
私には指揮権も責任も無かった
絶対に私のせいじゃない....
私は悪くない
それより気になったのが東金執行官の行動
先輩にドミネーターを向けて....
「あの、霜月監視官」
「っ!」
完全に別の事を真剣に考えていた私の目の前に突如現れたのは、例の"新人執行官"
もしかして、自分と夫にパラライザーを撃ち込んだのが私だって覚えてない....?
「....なんですか?」
「昨日の事件、私からの報告書が仕上がって先程そちらに送りました」
「なっ、もう!?」
だって二係のオフィスから宜野座さんと一緒に荷物を抱えながら出勤して来てから30分、全員が集まったタイミングで行われた挨拶がついさっき
なんで私なのと横を見ると先輩がいない
....そういえば雑賀譲二と話をしに行くって、挨拶が終わったらすぐに出て行ったっけ....
「昨日の夜に時間があったので....初めての報告書なので、もし何か不備があればすぐに訂正します」
「....分かりました。確認しておきます」
"ありがとうございます"と自分のデスクに戻って行ってすぐ夫と何か短く会話をしたのが見えた
気を取り直してパソコンに意識を戻すと、確かに新着ファイルで宜野座名前執行官による、渋谷区メンタルケア施設立てこもり事件の報告書が表示されていた
....初めての報告書ね
そんな簡単に行くわけないでしょ
と目を皿のようして、そこにあるべきミスを探しながら読み進めた
だって配属1週間で、初めての現場、初めての報告書
いくら元人事課職員で書類作成は慣れてると言っても、所詮は新人でしかも執行官
....と思ったのに
「...これ....」
見覚えのある隙の無いしっかりとした文章
まるで監視官が書いたようなレイアウトと言葉遣い
....そんなのダメに決まってるでしょ
私は立ち上がって、その普段から生真面目で仕事だけは抜かりない元監視官に歩み寄った
ついに指摘出来るのが何故か嬉しい
...って、私...何言って....
「....なんだ?」
「え...あ....」
その人物を目の前にして自分が持った濁った思想に恐怖した
....それでも
「....あんなのが許されると思ってるんですか?」
「何の話だ」
「元監視官のくせに、他人の報告書を書くなんてよく出来ましたね」
「あ、あれは本当に私が
「俺が書いたという証拠はあるのか?霜月」
弁明しようとした自身の妻を抑えてそう聞き返して来た宜野座さんは、焦った様子も怒っている様子も無い
「あなたが書く文章に酷似していました。作成者のサインが別人である以上、文書の偽造が成り立ちます。いくら夫婦でもそんな事は
「俺が"教育係"として書き方を教えた、それだけだ。内容は正真正銘彼女が書いた物だ。俺が証明し責任を負ってもいい。問題はあるか?」
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実際確かに昨日の夜、甘い時間を過ごし終えたところでまさかの報告書作成の指導が入った
寝るにはまだ早い時間だったからという理由で
事件の事でも、台所というイレギュラーな場所で強く与えられた愛にも、普通に疲れていた私は"嫌だ"と言ったけど、職場で教える時間は無いと半ば強制的にパソコンを目の前に置かれた
つい少し前までお互い余裕無く求め合っていたのに....そのままの格好で寝室に戻り布団に入ったら急に報告書の書き方なんて....
いくら人事課にいた頃事務作業はかなりこなしたとは言え、正真正銘のエリートだった伸兄とは比べられない
監視官基準のレベルで教え込まれ、書き終えた時には私はそのまま倒れるように寝た
「....だ、大丈夫?あんなに強気に言っちゃって....」
「事実を伝えただけだ」
霜月さんは何も言わずにデスクに戻って行って、私はその空気に違和感を感じた
「伸兄....霜月さんに嫌われてるの?」
「....霜月はお前を"潜在犯"から守ろうとしていた」