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"後で話す"と先延ばしにされた霜月さんの話を、結局退勤後聞かされた私はなんだか擽ったい気持ちだった
監視官として霜月さんの行動は間違ってない
つい先日私の勘違いで伸兄に明かされた真実ではあったけど、私が意を決して家を出た時既にサイコパスが規定値を大幅に超過していて、潜在犯落ちした夫に強く影響を受けていると判断した厚生省に結婚した事実すら消された
前夫が潜在犯だと社会的不利益を被る可能性があるから
そんな厚生省の意に反して私を探す元夫と、それを可能な限りを尽くして手伝う先輩監視官
確かに反感や異議を持つのは理に適っているし、まだ潜在犯認定を受けていない"善良な市民"を守るのは紛れもなく正しい
でもそれを強く振り切ってまで私を探してくれた
私は別れなんて望んでない事を分かってて、"既に別の人と新たな人生を歩んでる"と推測したらしい霜月さんを否定して私を捨てないでいてくれた
当然と言えばそうかもしれないけど、その全く動じない愛が素直に嬉しい
「だからあの時目を逸らされたんだ....」
「目を逸らされた?」
「昨日の事件の現場で初めて会った時、不自然に目を逸らされたの。私が覚えてないだけで何かしちゃったのかと思ったよ」
「....霜月は未だに俺達の事が受け入れられないんだろうな」
「じゃあ私も嫌われてる?」
「あいつはまだ18だ、あまり感情的にならないでやれ」
「え、18!?霜月監視官って未成年なの!?」
「あぁ、去年の4月に為された異例の人事だった」
確かに若そうだなとは思ったけど、私より11も下なんて....
常守さんも7歳年下で充分差を感じてたのに
上司二人だけじゃなくて、若い女の子ばっかりな職場....
自分がもうすぐ30って事すら信じられてない
「....そういう伸兄こそ、未成年の女の子相手にしては随分大人気なかったと思うけど?あんな威圧的にならなくても良かったでしょ」
リビングで外出の支度をする私を、腕を組んで玄関の壁に寄りかかりながら眺めるその姿は、相変わらずスーツがよく似合ってる
同じような身長だった頃から一緒に育って来て、なんで私は平均以上伸びなかったんだろう....
お父さんもお母さんも特別背が高かったわけじゃないのに伸兄だけあのプロポーションはずるい
「私だったら落ち込むかも」
「....俺もそこまで寛容なわけじゃない」
「....どういう事....?何かされたの!?」
急遽用意した花束とお酒という荷物を抱えて私も玄関に向かって、開かれた扉から共にエレベーターホールを目指す
「....まず言っておくが、霜月は悪くない。俺もあいつを責めてはいない」
「....頑張る」
....けど、事によっては私も自分の事コントロール出来ないかも
あの時伸兄に暴行を加えたことあると言った男性も抑えきれなくて掴みかかっちゃったし
伸兄が悪を働くわけがない、むしろそれに耐えて来たのを分かってるからこそ傷付けるられるのは許せない
「....何よりも大切な存在を奪われかけたんだ。多少の感情の漏れはある」
「え....?」
「今回は、お前が努力していたのを俺は隣で見ていた。それを勝手に勘違いされてお前が不正を働いたとされるのは黙っていられない」
「ちょっと待って!....あの時、私達パラライザーで撃たれたんだっけ....?」
....そうだ
目の前で急に伸兄が倒れ掛かって来て、動かなくなって
何が起こったのか頭が回らなかった私も....痺れるような痛みを感じたような記憶
「もしかして....」
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「すみません!お待たせし....」
本当は今日青柳さんが監視官として同伴するはずだった、宜野座さんと名前さんの外出
目的は墓参り
事件があった直後で私も暇がある身ではないけど、お墓参りくらいは行かせてあげたい
征陸さんもきっと名前さんに会いたいだろうし
そんな思いから絞り出した隙間時間で、二人と待ち合わせした地下駐車場へ向かう
でもそこで見たのは何故か泣いている名前さんと、それを胸に抱きしめて背中をさする宜野座さん
私の存在に気付いた宜野座さんは、申し訳なさそうな顔をした
「....名前、もういいだろ。俺もお前も無事だった。それで許してやれ」
「なんで....そんな必要なかったのに!私を落ち着かせてくれてただけなのに....」
「俺が命令を聞かなかったせいだ。あいつは監視官として正しい事をした。それは分かるな?」
「でも!そうじゃなかったら私は殺されてたんだよ!?」
「....はぁ...」
今日の二人の勤務態度はやっぱり思った通り優秀で、名前さんが提出した報告書も私が見習うべきだと思う程完璧だった
宜野座さんも心なしか機嫌が良さそうで、上司としては成功した1日
霜月さんは"業務に支障を来すかもしれない"と心配していたけど、むしろ反対だと証明になったかな
でも二人のこの変わらない思い合いが、さっきまで真面目に仕事をしていたとは思えない光景
私には暖かい
「名前さん、」
「....つ、常守さん....」
「大丈夫ですよ、私が代わりにちゃんと怒っておきましたから」