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「え、今日も伸兄...?」
「何か不都合でもあるのか」
「いや...べ、別に....」
分かってるくせに、と言ってしまいそうになるのを我慢する
近頃ずっと帰りが伸兄と一緒
狡噛さんが送ってくれるの毎回楽しみにしてたのに
運転する姿を助手席から見れるのは格別
そりゃ確かに近所に住んでるわけでもないし、送ってもらう事を期待する立場じゃない
でも、狡噛さんと2人きりになれる静かな空間が好きだった
「ギノはまだ上がりじゃないだろ。俺はあと30分もしたら終わる。俺が送る」
「そうなんですか?じゃあ私待ちま
「いい、休憩のついでだ。いつも狡噛に迷惑をかけるわけにはいかない」
「俺は迷惑だなんて思ってないぞ」
「.....こ、狡噛さんもそう言ってるし....っ」
私の言葉に鋭く睨む視線に怖気付く
「名前、先に駐車場で待ってろ。すぐに行く」
「で、でも....」
どうしても諦めが効かずチラリと狡噛さんを見てみたが、目があってしまったのが恥ずかしくすぐ逸らしてしまった
「....分かった」
特に反対する理由も思いつかず、渋々とエレベーターに向かう
正直言って寂しい
もう、しばらく狡噛さんと話せてない
今までは関わりを持てるだけで嬉しいと思ってたのに、より多くの事を欲してる
伸兄もこんな事無かったのに
どうして急に
「.....狡噛さんと喧嘩でもしたの?」
「....何故そう思う」
「だって伸兄、最近なんかおかしいよ。なんとなく狡噛さんに当たり強いって言うか...」
私から見ても端正な顔は、まっすぐ前を見つめたまま息を吐く
10年以上一緒に居てもまだ顔が良いと思えるのだから、同僚の女の子達の気持ちも分かる
...声まで意識した事は無かったけど
沈黙からして私の質問に答える気がないと踏んだ私は違う疑問をぶつけてみた
「そういえばさ、伸兄彼女居ないの?」
「は!?」
「ちょっと!危ないよ!!」
予想以上な反応を見せる伸元を横に急いでオートドライブのボタンを押す
「....その反応、まさかいるの?」
「いるわけないだろ!仕事とお前の世話だけで十分忙しい!」
「なっ!私そんなに子供じゃないんだけど!家事だってほぼ半々だよ?」
「それでも恋愛をするほど暇じゃない!」
「不器用なだけじゃない?」
「....今週の洗濯はお前がしろ」
「えっ!?それは関係なく無い!?」
「俺を侮辱した罰だ、当然だろ」
「別にそんなつもりじゃ!...まぁ、女の子ならいくらでも紹介してあげるから良い人見つからなかったら言ってね」
「興味ない」
「恥ずかしがらなくていいよ」
「ゴミ出しも追加」
「えぇ!ひどい!ひどすぎ!」
「自業自得だ」
再び公安局へと走り出した車を見送りマンションに入る
伸兄と狡噛さんの間に何があったって言うの
あの事件の前までは普通だったと思うんだけどな
何か狡噛さんに会う口実は無いかな
さすがに用事があれば伸兄だって止められないはず
何かないものかと思ってもそう簡単に思いつくはずもない
「ダイム....私欲張りなのかな」
私の目を見つめるダイムの目は何を語っているのだろう
狡噛さんは私の事どう思ってくれてるのかな
伸兄とは違って、いつも適度に気にかけてくれる
そんなところがまた好きだった
別に私のことが好きでしてくれてる事じゃないのは分かっていても、嬉しいのには変わり無い
高校の時も勉強を教えてほしいと頼めばそうしてくれた。
次の日が試験だったにも関わらず
それを知らずに頼んでしまった私は伸兄に怒られて、すぐに謝りに行ったけど、自分がしたくしてした事だから気にするなと言ってくれた
今日車の中で伸兄に聞いた事
....よくよく考えてみれば狡噛さんにこそ好きな人や彼女がいるかもしれない
聞いた事ない見た事ないだけで、いないとは決め付けられない
そう思うと急に怖くなった
今までもどこか、狡噛さんに優しくされてるのは自分の特権だと思っていた
でもそうとは限らない事に気付くと一気に自信を失った
....もしかして伸兄と狡噛さんで好きな人が被ったとか?
それで揉めてて、ここ最近あの2人の間には妙な空気が流れてる?
言葉では2人とも普段通りなものの、長年見てきた私には分かる
....絶対そうだ
そうと分かってもやっぱり狡噛さんへの気持ちは消えなくて、むしろ忘れられないようになるべく近くにいたいとすら思った