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「何度言ったら分かるんだ!誰に聞かされたのか知らないが、そんな事実はどこにも無い!いつまでその妄言を信じているつもりだ!」

「じゃあ私がバースデーカードを持ってるって言うのも妄言だと思ってるの!?私を信じないの!?」

「そう言うお前が俺を信じないのは何故だ!こんな事でお前を騙して何になる!」

「本当は霜月さんに情でもあるんじゃないの!?昔の自分に似てるって、放って置けないんでしょ!妥協を覚えて"大人"になった伸兄だもん。どうせいつまでも子供みたいにわがままばっかり言う手のかかる"お子様"より、監視官として自立してる若い女の子の方が心配しがいがあるのは分かってるよ!」

「ふざけるな!俺がどれ程お前に心身を費やしているのか分からないのか!」

「それでも霜月さんには迷惑をかけられないくせに!私が頼んでも監視官だった頃みたいに怒らないじゃん!それどころか霜月さんとの約束は守って、私に嘘までついて」

「その約束を破ってまでお前には事実を伝えただろ!」

「もうそれが事実なのかも分かんないよ!だいたい何なの?何で私のサイコパスについて霜月さんが気になるの?どう考えてもおかしいじゃん!」

「.....」

「っ....」


途端にじっと私を見つめて黙ってしまった伸兄は、気付かない内に久しぶりに見る怒りの目
息が止まりそうな威圧が苦しい

....私のせいじゃ、ない
これは話してくれなかった伸兄が....


「....そ、それなら直接私に聞けばいいでしょ!わざわざ伸兄を呼び出して、その上私に言うなとか意味分かんないよ!」


....そうだよ
伸兄が教えてくれた事実には不可解な点が多過ぎる
東金さんについてどう思うかって質問も、伸兄一人に向けて聞く理由は無い
他の人全員に聞いて回ったのかもしれないけど、そんな場面見聞きした事ないし、少なくとも私は聞かれてない
私を嫌ってたから聞かなかったんだとしても、それこそ伸兄伝いで聞いても良かったよね?
しかも何で限定的に私のサイコパスなんか....

私が何をしたって言うの?
どうしてこんな


「名前、」


そう低くなった声色に思わず肩が震える


「....お前はどこまで俺を信じないつもりだ」

「そういう....わけじゃ....」

「ならどういうわけだ。俺が何を言っても聞かない、嘘だと疑う」


....どうしよう
本気で怒ってる
今更怖くなってもしょうがないのに、素直になれない意地が解けない


「っ!」

「誰だ、お前は誰に操られてる」

「.....」


グッと顎を掴まれて視線を外せない
でも....それでも言えない
東金さんだって言ったら、絶対伸兄何かしそうで
東金さんは悪くないって分かってるから、せっかく私を助けてくれようとしてくれてるのに迷惑をかけたくない

....ってきっと、伸兄が霜月さんに対する気持ちも似たような事だろうに


「いい加減教えろ、誰がお前に在りもしない虚偽を吹き込んでる」

「....知って、どうするの....」

「お前が気にする事じゃない、そこから先は俺が処理する」

「.....」

「雛河か?」

「え、ちょっとそれは!」

「六合塚か?」

「待って!ねぇ!」


そんな
伸兄相手じゃ些細な反応でバレてしまう
それだけは何としても避けたい
東金さんと揉めさせるわけには


「東が

「そっちが霜月さん呼んで証明してよ!それで私が聞いた話が間違ってたってなったら、誰から聞いたのか教えてあげる」

「いいだろう」

「....え?」

「なら今すぐ連絡する、宿舎を出る準備をしろ」

「なっ!ちょっと待って!」


私を離した手でそのままデバイスを起動し出した動きを、慌てて掴んで止める
まさかこんな簡単に了承すると思わなくて掛けた脅しのつもりだったのに


「元々嫌われてるのにこんな私的な事で呼び出したらダメでしょ!」

「お前があいつは俺に好意があると言ったんだろ。その相手に呼び出されたら喜んで来るんじゃないのか?」

「....ぶ、部下が上司に迷惑かけちゃいけないって...!」

「構わない。お前の気が済むなら、それくらい俺が責任を負う」

「い、嫌....嫌だ!」

「名前、

「嫌って言ったら嫌なの!どうせ二人で口裏でも合わせてあるんじゃないの!?」

「.....」

「今まで散々伸兄に悪態をついて来た霜月さんの言葉を信用できるわけない!」

「....そうか、分かった」

「の、伸兄....?」

「誰だか知らないが、お前が心底信じ込んでいるそいつに伝えておけ。俺達が互いをそう簡単に手放すと思うな」





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