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「夕飯は食べたか?」
「食べ、ゴホッゴホッ」
「痛むなら喋らなくていい、食べたなら頷け」
そう聞くと縦ではなく、横に首を振った辛そうな表情
顔を背けて嫌がる素振りを見せた名前に、遠慮無くその額に手を当てる
「....今日は何をしていた?」
「....ゴホッ」
「本当に大人しく寝ていたのか?」
昨晩、そろそろ名前が帰って来てもいい時間に響いたのはチャイムの音
それと同時にダイムが吠え出し言う事を聞かなかった為、扉を開ける前に一時的に寝室に入れておいた
そして俺が玄関で出迎えたのは、東金の上着と肩を借りながらふらついていた名前だった
『申し訳ありません、私が奥様の異変にもう少し早く気付いていれば良かったのですが。ここ最近は随分お疲れのようでしたからね。免疫力が下がっていたのでしょう』
『....そうか、わざわざすまなかったな』
と受け取った熱に冒された身体から東金の上着を剥ぎ、持ち主に返した
その時に感じた熱と今触れた熱があまり変わらない
更に前の晩もそうだったが、宿舎を飛び出したきりなかなか帰って来なかった名前の代わりに届いたのは、唐之杜からの着信
"名前ちゃん潰れちゃったから迎えに来てあげて"との事で唐之杜の部屋に向かうと、確かにぐったりとした姿
『止めたけど聞かなかったのよ』
『どれくらい飲んだんだ』
『....3缶くらい?いちいち覚えてないわ。それよりあなた、美佳ちゃんと何しちゃったの?』
『...はぁ...名前が話したのか?』
『かなり取り乱してたから何言ってるのかよく分からなかったんだけど、あなたと美佳ちゃんの名前が上がってたから。まさか手を出してないでしょうね?』
『下らない冗談はやめてくれ』
六合塚がただ静かに見守る中、俺は名前を部屋から抱え出した
何でもかんでもつまらない意地を張って勝手に無理をして
素直に頼ればいいものを、むしろ余計に悪化させる
「.....」
「....寝ていなかったんだな」
咳き込みながら、先日渡したぬいぐるみを抱えて背中を向けた名前の髪先が光ったことに気付く
触れてみると濡れていて、汗ではなさそうな様子に俺は思わず深く息を吐いた
「俺が帰るまで待てなかったのか」
「嫌だっゴホッ」
汗が気持ち悪かったんだろう
俺に手伝って欲しくなく、一人でシャワーを浴びた挙句体を冷やした
だから薬を飲み1日たった今でも熱が下がっていない、と言う事か
....どれだけ俺の精神を削れば気が済むんだ
「何か食べる物を用意して来る」
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はぁ....
辛い
やっぱりシャワー浴びたのが悪かったかな....
汗でベタベタしてたし、温まるかなと思ったのに
浴室から出た後が問題だった
髪を乾かす体力も無いし、12月で暖房がついているとはいえ湯気が立ちこもる部屋から解放された体には冷気に感じた
髪を乾かさなかったらまた怒られるし、こんな状況で頼りたくないと言う意地で何とかドライヤーを手にした
結局8割くらい乾いたところで私の意思は限界を迎え、最後の力を振り絞ってベッドに戻ると、しばらくして聞こえて来たのが伸兄が帰って来た物音
食べ物用意して来るって、長い仕事から帰って来たばかりなのにまた私の看病まで
こんなんだからいつまで経っても自立できない
かと言って自立をさせてもくれない甘やかし
責任転嫁じゃないけど、つまりこれって私だけのせいじゃないよね?
問答無用で甘やかして来る伸兄の責任もあるよね?
なんてぬいぐるみに向かって心で呟く
お父さんが聞いてくれる気がして
「っ!」
その返事として返されたデバイスの着信音に軽く肩を震わせる
突然鳴らなくてもいいじゃん....と理不尽なクレームを入れてから改めて画面を見ると
"霜月美佳"
....その名前だけで熱が上がりそう
「....は、はい。何でゴホッ
『今すぐ30階の留置所に来てください。枡嵜医師の部屋で異変が感知されました』
「え、今すぐ
ですか?
と聞こうとして、込み上げて来た咳をする欲に負けた時には切れていた通話
....行かなきゃ
仕方ない、仕事だから
枡嵜医師って、確か鹿矛囲桐斗の執刀医だったよね?
どちらかと言うと"敵サイド"だし何も喋らないんじゃないかと思ったら、雑賀さんとの聴取でほとんど全てを語った
セキュリティーは万全な公安局で異変って何だろう....
体重が倍にでもなったような体を無理矢理起こしてクローゼットに向かう
前からそうだけど、伸兄とスーツは全く同じ色同じ素材だから、適当にそこら辺に置いてあると時々見分けが付かなくなる
....まぁ、潔癖な伸兄だからこうしてちゃんとハンガーにかかってる事がほとんど
あとはワイシャツかブラウ
「なっ、名前!ベッドに戻れ!」
「仕事な、ゴホッ」
「仕事だろうが何だろうが駄目だ!誰に呼び出された!」
....こういう時行き過ぎた心配が先走って怒っちゃうのが、伸兄の悪い所でもあり愛しい所でもあると思う