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そこからはまるで生きた心地がしなかった


「須郷さん!早く!」


少し遠くから聞こえて来た"爆弾"という単語に、思わず隣で銃を構える須郷さんの袖を強く掴む
照準を合わせる邪魔になってしまうとも気が巡らずに


『あなた達の方こそ、ここで終わるの!』

「....同じ直線上に宜野座執行官と雛河執行官がいます」

『よせ!』

「須郷さん!」









その状況を目にしたのはたった3分程前の事


『世界を...変えてくれる!』

「....今の声は?」

「...恐らく酒々井監視官かと...」


唐之杜さんに案内されながら辿り着いたのは、分析室で見た場所
ちょっと薄暗くて、2種類の何かを撃つ音が響いていた
一つは聞き覚えがあるドミネーター
もう一つは須郷さんも見当が付かなかいって

"戦場"に到着するまでは

物騒な音が轟く方角へ、辺りを警戒しながら歩みを進めていく
大きな強襲型ドミネーターを担ぎながら移動する須郷さんは私にはどうしても申し訳なく見えて、車を降りた時に何度も私が持つと言ったのに
本来休みだったはずのところを私が無理に連れ出してしまった罪滅ぼしとして手伝いたかったのに
"そういうわけにはいきません"と言って、断固として譲ってくれなかった


そして私達の前に現れた景色と声は、


『酒々井!』

『もうすぐよ...カムイがクリアにしてくれる、カムイが、この世界を!』


私を突き動かすには充分過ぎた


「っ!伸に


まずい
と思った私の反射神経は遅くて、気付くと叫びは全て大きな手によって喉奥に戻されていた
その突然の事を予期できていたわけがなかった私は何故か息が出来ないと思い込み、咄嗟に体ごと押し込まれた狭い物陰で強めに胸を叩いた

"すみません..."と離してくれた須郷さんに私はどうしたらいいのか
謝るべきなのは私だと思いはしても、その時は頭が一杯一杯だった

だって....


「矢が....」


コートを突き抜けて腕に


「お気持ちは分かりますが今は酒々井監視官を抑える事が先です。こちらの存在を気付かせるわけにはいかない」

「.....」

「....自分は狙撃出来そうな場所を探して来ます。あなたは

「行きます....もう迷惑はかけませんから」







と自分で言ったのに
危機を前にしては理性が効かない

酒々井さんが爆弾を
起爆させてしまったら

緊張や恐怖、黒く染まりそうな感情が押し寄せてくるのに耐えるような力で袖を掴んで離せない


『ありがとう....』


そんな



ダメ

こんな所で


「お願いです!」

『カムイ....』

「須郷さ


その瞬間伝わったのは押し戻されるような衝撃と青く鋭い光



....撃った?

当たった?

間に合った?
































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「三係が丁寧に設置してくれた爆弾よ」


まさか自分も一緒に全部吹き飛ばす気か!?


「あなた達の方こそ、ここで終わるの!」

「よせ!」


冗談じゃない
あのボタンを押させるわけには


「ありがとう....カムイ....」


まずい
間に合わない
三係が設置した爆弾をまともに受けたら俺は....





「っ....」


ありもしない覚悟を決めるように走っていた時だった

突然目の前で酒々井が倒れた

....何だ?
どういう事だ

誰が


「....遅くなりました」


そんな俺の自問を察したかのように現れた相手に、言い表せないような感....情....


「っ!なっ!

「伸兄!」


遠慮など知らないように飛びついて来た体重を、全く状況が理解出来ない混乱した神経で受け止める

"良かった"と人目も憚らずに泣き喚きながら押し付けられる体温

....一体どうなってる?
唐之杜と本部に残らせたはずが、何故須郷と共にここにいる?


「....左...もう!」

「っ、なんだ!」

「酷い!」


そうかなりの力で襟元を叩かれ、益々意味が分からない
"すごい心配したのに"とだけ繰り返して泣き続ける名前は、引き剥がそうとしてもしがみ付いて来る

視線を上げると奥にいる須郷と目が合い、後ろには雛河もいる事を思い出す
....全く


「....すまないな、少し落ち着かせて来る」


列車の座席にでも座らせるかと名前の肩を押そうとすると


「宜野座執行官、....その、矢が....」





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